第3章 三ヶ月目のさよなら
そこに一松さんがガラッとふすまを開けて入ってきた。
そしておそ松さんにスッと何かを差し出した。
「おそ松兄さん、皆には一緒にいたって説明してあげるから、このお金でパチンコに行ってくれない?」
「え? マジで!? ラッキー! よっしゃあ! 今日こそは勝つぞー!!」
おそ松さんは千円札を握りしめ、砂煙を立てて松野家の玄関から出て行った。
「……は?」
放っとけないんじゃなかったの?
展開についていけず、トランプを切りかけた姿勢のまま、呆然とする私。
「二人っきりだね」
一松さんは私の肩に手をかけ、ニヤリと笑ったのであった。
きゃー。
『一松さんは家に戻れば絶対に落ち着く。
一緒にいられたら、以前みたいな優しい時間を過ごして、いいお別れが出来るはず』
そう思ってた。それは半分当たっていて、半分間違っていた。
…………
おそ松さんを追い払い、二人きりになった。
家でイチャつくか包丁で刺されるか、どっちかなーと思ったけど、一松さんは私を外に連れ出した。
手をつながれ、さして抵抗もせずついていき、首を傾げた。
「一松さーん、どこに行くんですか? 殺人なら時間がマズいし、ラブホなら方向が違いますよ?」。
「俺を何だと思ってるの。いつも危ないことかエロいことしか考えてないように見える?」
「え? 違うんですか?」
「てい」
「いたぁ!」
デコピンを食らってのけぞった。だが一松さんは少し嬉しそうに、
「それとも、期待してるの? ちょっと待っててね」
不用意な発言だったかもしれん。
「どこでもいいですよ。一松さんといられるのなら」
「…………」
あ。ちょっと顔を赤くしてる。可愛いなあ。
「何、考えてるの?」
「一松さんが可愛いと」
「てい」
「いったぁっ!!」
攻撃力のアップしたデコピンを食らい、のけぞった。なぜにっ!?
「男が恋人に可愛いと言われて、嬉しいと思う?」
「……失礼しました、ものすごく可愛――冗談っす、冗談っ!!」
一松さんがデコピン態勢に入ったので、大慌てで撤回した。
で、一松さんはボソッと、
「松奈の方が、すごく可愛いから」
どうしよう。本当のことを言われ顔が赤くなってしまう。
「……今、余計なことを考えなかった?」
何でこう、勘が鋭いんだ。