第3章 三ヶ月目のさよなら
「一松さん、狭いんだからソファで寝て下さいよ」
私は一松さんを布団の外に押し出した。
「え? ちょっと待って。何でそうなるの!?」
「それもそうだな、隣同士で寝られて、夜中に交尾されても困るし」
意地悪く笑うおそ松さん。
「しねえよ!!」
「あー、一人減ったらやっぱり広いねえ!」
と無慈悲な十四松さん。
「一松、毛布は自分で押し入れから出せよ」
素っ気ないチョロ松さん。
「さあ、寝るかブラザー達、寝られない者にはこのカラ松が子守歌を――」
「おやすみー」とトド松さん
「え」
パチンと電気が消えて。
「……え」
暗闇に一人立ち尽くす一松さん。
哀れ。見えざる前科がついたためだろうか。
一松さんは六つ子ヒエラルキーの最下層に落とされたらしい。
男兄弟の力関係のかくも無慈悲なことよ。
寂しげに毛布を持ってソファに上がる一松さんを見ながら、私は安らかな眠りについたのであった。
…………
「かたっ……かったぁ……!」
遠くで声がする。
「固すぎ! 松奈~、いい加減にしないと背骨に悪いって!!」
誰かが怒鳴ってる気もする。
うるさいうるさいうるさい。私はここにいるのー!
「松奈。起きて」
あ、一松さん! そうだ。一松さんがおうちに帰ってきたんだ。
私はパチッと目を開ける。
んん? 六つ子の皆さんが心配そうに私を見ている。
そんなに遅寝してたかなあ。あ、何か私、丸まってる。
そろそろと身体を伸ばし、
「……い、いったあっ!!」
背中にグキッと来て、しばし悶絶する。
「そりゃそうだよ。あんなに固まって寝てたらね」
そうだっけ? 何のお話? 皆さんをキョロキョロと見上げるけど、
「もう誰が何をやっても治らないよな」とおそ松さん。
「今日の固さは最高記録だよ。一松兄さんがいるからじゃない?」とトド松さん。
「……お、俺のせい?」と一松さん。
何だか話がつかめない。
「ブラザー。朝からそんな話はよせ。子猫ちゃんがきょとんとしているだろう」
カラ松さんがそう言ったので、寝起きの微妙な空気は無くなった。
はてさて。身体痛いなあ。