第3章 三ヶ月目のさよなら
やがて空が白み、雲が黄金色に染まり、ゆっくりと朝の光が建物を照らしていく。
私たちは肩を寄せ合い、抱き合い、繰り返しキスをした。
「一松さん、家に帰りましょう?」
「……うん」
一松さんは涙をぬぐってうなずいた。
…………
そしてまあ、帰ったんだけど。
松野家の兄弟は例のごとくだった。
「あ、一松~。ネットカフェの延長料金、払えよ」
「一松、歯を食いしばれ。分かるな」
「家の中で二人きりは禁止ね。今後は二人だけの外出もダメ」
「一松兄さん! もう女の子にひどいことしちゃダメだよ!」
「うわー、どのツラ下げて帰ってくるかなあ。プライド無いよねえ!」
……かなり容赦のない反応であった。
それだけ皆さん、私のことを心配して下さったと見るべきだろうか。
ちなみにお母様に至っては『そういえば誰かいない気がしていたわ』と不在にすら気づいてなかった。
しかし一通りの冷やかしと制裁が済むと、一松さんは松野家の風景に速やかに溶け込んでいった。
殴られた頬をさすりながら、部屋を訪問する親友に、嬉しそうににぼしをやり、カラ松さんにはきっちり反撃。
夜になれば変わらず皆で銭湯に行き、あとは何をするでもなく部屋でゴロゴロしていた。
一方、徹夜となった私は、六色のはんてんにくるまりながら、半日寝ていた。
ときどき起きると、一松さんが、とても安心してくつろいでいるのが見えた。
――やっぱり家に帰りたかったんじゃないですか。
ホッとしたような切ないような思いで、一松さんが猫と遊ぶのを見ていた。
で。夜になった。
「やっぱ七人だと狭いよなあ」
「誰かソファで寝たら? この前みたいに」
「……おかしくない?」
『何が?』
一松さんの声に、六人が一斉に返答する。
するとガバッと一松さんが起き上がり、
「いやおかしいだろ。何で俺がいない間に、松奈が当たり前に一緒に寝るようになってるの!!」
「だって心配で一人で寝かせられないだろ」
「子猫ちゃんが夜のトイレを怖がるようになったからな。ナイトが必要だ」
「俺たちと一緒なら安心だし」
「ときどき、すごく寝相が悪いけどねー!」
「言っとくけど、変態の犯罪者が原因だからね? 分かってる?」
「皆とくっついて寝るとぬっくいです」
「松奈! おまえまで……!」