第3章 三ヶ月目のさよなら
一松さんはコホンと咳払い。
「松奈。どうしてもこの世界にいてくれないの?」
「それに関して、もう説明はしないですよ?」
「俺が嫌い?」
「私の意思を無視して閉じ込めちゃうトコは」
「…………」
あ。ズーンと落ち込んでる。
監禁がツボな子がいたら、単なる病人でしょうが。
「座りましょうよ、一松さん」
川を見下ろすコンクリートブロックの上に腰を下ろすと、一松さんも素直に横に座る。
そして自然に私の肩を抱き寄せてきた。
川面には対岸の建物の明かりがチラチラと揺れている。
そのまま、私たちは夜の川をしばらく眺めた。
「ずっと、このままでいられたらいいのに」
「ダメですよ。家に帰らないと。皆、心配してますよ?」
「嫌」
「ワガママ言わないで下さい。お金なくなったんでしょ?
行き倒れられたら笑えないですよ?」
「別に? 女の子を監禁するクズには、ちょうどいい末路だろ?」
「一松さん~」
「俺も油断してたよ。あの連中が怪しまないことを怪しむべきだった。
俺がもっと気をつけていたら、松奈は今も俺に閉じ込められていてくれたのに……」
「そういう話は止めて下さい!」
「後悔はしていないって俺は言った。そんな男にノコノコついてきた自業自得だろ?」
一松さんは立ち上がり、私の手を取った。
「松奈。俺と行こう」
「どこへです」
「どこへでも。俺はこの町に長くいるから、お金を貸してくれるアテは何件かある。
このまま家に帰らないで、二人で遠いところに行こう。
松奈と一緒にいられるなら……どこでもいいよ」
「一松さん。なら一緒に私の世界に来ますか?」
「……っ!!」
瞬間、あきらかな動揺と――拒絶の気配を感じた。
私はたたみかける。
「どこでもいいって仰いましたよね? なら一緒に来て下さい」
「それは……」
怯える気配。声が一気に気弱になる。
「冗談ですよ。私の世界、似てるようで、ものすごくシビアだから来ない方がいいですよ」
「思い出したの?」
「半分くらいは」
かすみがかった、あいまいな記憶だけど。
それでもあそこは人が子猫になったり、刃物の傷が一瞬で治るようなことは、ありえない冷たい世界だった気がする。