第3章 三ヶ月目のさよなら
あ、そうだ。忘れてた忘れてた。私、犯罪被害者だ。
そして一松さんは立ち上がり、
「俺は松奈にひどいことをした。だけど何一つ、後悔はしていないから」
「へー」
そういう発言は困るなあ。
一松さんは私の手首を強い力でつかむ。
これはちょっと、嫌かな。
久しぶりに真正面から見る一松さんの顔は、月明かりがあってもなお、闇が濃い。
「おそ松兄さんは甘すぎるし、松奈も無警戒すぎ。
悪人が姫君の許しに感極まって改心するっていうのは、物語の中だけだよ?
現実には俺は何も反省してないし、また同じことをやりたいと思っている」
「もう、お金はないんでしょ?」
「その気になれば方法はいくらでもある。松奈には不自由な思いをさせると思うけど」
「一松さーん。もっと穏便に終わらせましょうよ。
せっかく私が温かく謝罪を受け入れ、全身の穴という穴にタバスコをすりこんで、のたうち回る姿を撮影して、動画サイトに投稿したり、皆で爆笑したりする程度で許してあげようと思ってたのに」
「それ全然っ許してないよねっ!?……まあいいよ。松奈は許してくれて、その件はそれで終わっても、俺の動機は消えてないから」
「動機……」
一松さんが私の身体を抱き寄せたかと思うと、キスをした。
「松奈を元の世界に帰したくない。その気持ちが消えない限り、俺は何度でも、
同じ事をする。反省しない、謝らない、絶対に後悔しない!」
引かぬ、媚びぬ、顧みぬとな。
茶化そうとしたけど、抱きしめられて言葉が喉で止まる。
「馬鹿じゃないの? 何でこんなクズ、許しちゃうの? ホイホイついてきちゃうの?
俺、本当にひどいことしたんだよ? お腹刺しちゃったんだよ?」
もう一度、キスをした。
抱きしめ返すと、半引きこもり生活の贅肉がちょっと消えてる。
むしろあばらが浮いてきた感じ? さわさわと身体を触っていると、何やら下半身に……。
「ちょっと、一松さん」
「……ごめん。でも松奈が触ってくるから」
男め。人のせいにするな。
とりあえず一松さんの一松さんに落ち着いていただくべく一旦身を離した。