第3章 三ヶ月目のさよなら
「じゃ、私が一松さんを監禁して一切の自由を阻害すればいいんですか?
嫌ですよ。面倒くさすぎるし、私はガサツだから、あそこまで徹底出来ませんよ」
「松奈が俺を監禁!?……いやだから、そういう話じゃないって!」
なぜ一瞬だけ嬉しそうな顔になった。
一松さんは相変わらず繊細で面倒くさい。
「ちょっと話をしよう」
と私の手をつないできた。
えー、早く帰って眠りたいー。
そういうわけで、私たちは近くの川べりまで来た。
時刻は深夜三時くらいだろうか。
聞こえるのは虫の音と川がサラサラ流れる音。あとは時々遠くを車が走る程度。
ホームレスのテントもなく、早朝散歩には早い。
つまりは多少大声を出しても助けは来ないということ。怖ー!
「これ」
「あ、どもです」
一松さんからホカホカの中華まんをいただき、私はあーんと口にする。
「……て、これ、あんまんじゃないですか!!」
激高し、くってかかる。
「え? 女の子だから甘いのがいいのかと思って」
「素人が!! 口の中が甘さに浸食され、水分が欲しくなるんですよ!」
素人?と首をかしげる一松さんを無視し、あんまんをほおばる。
あんまぁ~!でもそこがいい!
「やっぱりいいんじゃん」
ボソッと呟き、ご自分もモソモソと肉まんを食べる一松さん。
「あ、一松さん。お金返して下さいよ。お金。監禁費用に使ったとしても、まだかなり残ってるはずでしょ?」
「監禁費用って――いや、全部使っちゃったけど」
「はああぁ!?」
「でなきゃネットカフェで寝泊まりしてるワケないじゃん」
私は一松さんの胸ぐらつかんで揺さぶりだした。
「馬鹿馬鹿馬鹿!! クズニート! 変態! 社会不適合者! 猫缶常食者!
アメショ! ペルシャ! マンチカン! スコティッシュフォールド!!」
「猫缶は常食してないけど。あれ人間用じゃないから、どれも味が薄すぎるし」
なぜそれを知っている。私のお金~。
アホな会話をしていたら、あくびが出た。
まあお金は問題じゃなくなってきたから、いいや。
おうちに帰って寝たい~。
「一松さん、帰りましょうよ」
「いや帰らないって」
「何でです」
「被害者がそれを聞くの?」
「へ? 被害者って?」
「――――っ!!」
一松さんが頭を抱え、盛大にかきむしるのが見えた。