第3章 三ヶ月目のさよなら
「ただいまー!」
ガラッと松野家の扉を開けると、
「おかえり、松奈。ケガは良くなったの? 今日はカレーよ」
「わーい!!」
お母様の笑顔に癒やされる。
そしてドヤドヤと他の六つ子が帰ってきて。居間にゾロゾロと集まる。
「松奈、こっちに座って」
一松さんのスペースが空いたため、私がそこに収まる。
やがて笑顔のお母様が大鍋を持ってきて、
「さあニートたち、カレーが出来たわよ。食べなさい!」
『わーい!!』
あれ?『ニートたち』の中に、いつの間にか私も組み込まれてない?
危機感を抱きつつも、楽しくカレーをかき込む私だった。
…………
「じゃあ消すよー」
「おやすみなさーい」
パチンと音がして、電気が消える。
「狭くないか? マイキティ」
「いえ大丈夫です、カラ松お兄さん」
お布団の端っこでもぞもぞと動き、目を閉じる。
……何で男五人の布団に混ざる状況に慣れてるんだろう、私。
でも、ほどなくして寝息が増えていく。
寝息の数を一つ、二つと数え、起き上がろうと身じろぎを――。
「眠れないのか? マイキティ」
「!」
寝返りを打つとカラ松さんが心配そうにこちらを見ていた。
「眠れないのなら、子守歌を歌おうか?」
いえいえいえいえ結構です!! 全力で首を振り、『大丈夫です』とジェスチャー。
カラ松さんはまだ心配そうな顔をしていたが、やがて目を閉じる。
それを見届け、私も目を閉じた。
「松奈、どうしたの?」
「眠れないの?」
その後も私が起きようとするたび、誰かが気がついて声をかけられ、ギクッとしたりドキッとしたり。でもついに――。
……全員寝た。
私が起きても誰も気づかない。
私はそーっと、そーっと布団から抜け、ふすまを開けて暗い廊下に。
「……っ!」
狭くて暗くて先の見えない廊下。『あのとき』の恐怖と閉塞感を想起させる。
怖い。行きたくない。優しいお兄さん達のいる布団に帰りたい。
でも勇気を出して、そっと踏み出す。
そして自分の部屋につき、急いで服を着替える。
時計は午前一時か。いちおう色気の無いジャージ、なぜか松印のついてるパーカーを着る。もちろん財布も忍ばせて。
階段を下り、居間を抜け、玄関を開けて――外へ。
あとは何も考えず、一気に走り出した。