第3章 三ヶ月目のさよなら
「カラ松兄さんがエサをやってくれてるから大丈夫」
勝手にエサ係を押しつけられてる次男。
「でも、でもですねえ」
焦りつつ次の口実を考えていると、
「松奈。松奈は、僕と一緒にいるの、嫌い?」
トド松さんがうるっと、こちらを上目遣いに見上げてくる。
……か、可愛いっ!
「いえそんなことはありませんよ。一緒に行きましょう!」
「そう? 良かった!」
――はっ! わ、私は今、何を!!
トド松さんはもちろん私より高身長。なのに『見上げてくる』って何。何なのこの末っ子オーラ。
「行こうよ、松奈!」
トド松さんが手をつないで来た。
「はい!」
ついつい一緒に並んで歩いてしまう。
しかし『年上の異性と手をつないでドキドキ☆』より『可愛い弟と楽しい散歩☆』的に脳が錯覚しているのはなぜだろう。
「松奈、何を考えているの」
「いえいえいえ別にっ!!」
でも私の沈黙を、トド松さんは別の意味に取ったようだ。
「あのね、松奈。僕は兄さんたちほど心配性じゃないから」
「え?」
トド松さんが手をつなぎながら言ってきた。
「でも松奈がまだ傷ついてるって知ってるよ」
うーん。傷かあ。
さすがにあんなことがあって、ケロッと日常生活を送れるほど剛の者ではない。
まず若干の閉所&暗所恐怖症が残った。
一人で狭くて暗いところにいると、思い出して身体が震えてしまう。
チェーンの音とか聞くだけガクガクするし、栄養食品やミネラルウォーターのたぐいも視界に入るだけで吐き気がする。
ただし一松さん本人については、今のところ負の感情はない。
皆がうっかり話題に出しても平気だし、むしろこちらから話を振りたいくらい。
会いたい。会って一発殴りたい。
「松奈は元の世界に帰るんでしょう? なら一松兄さんとはもう会わない方がいい。
どうしても会うのなら、こっちに永住するって約束して」
トド松さんは言葉を切る。
「松奈がいると、一松兄さんはおかしくなるだけだから」