第3章 三ヶ月目のさよなら
「何か必要なものがあったら、僕が代わりに買ってくるから。
病院でも言われたでしょ? しばらくは家で静かにしていて。いいね?」
「は、はい……」
結局その後チョロ松さんと、テレビを見ながら一時間ほど雑談する羽目になった。
「ではそろそろ横になりたいから、ちょっと上に行きますね」
「うん。ゆっくり休んでいてね。おやすみ」
「おやすみなさーい……」
トボトボと階段を上がっていった。
そして部屋で横になったものの、目が冴えてる。
ちょっと前まで、何時間ベッドに横になっていても平気な生活だったのに、そこから脱出すると、動きたくて仕方ない。
一松さんに会いたいし、他にもやることはたくさんある。
そーっと、そーっとふすまを開け、階段から下をうかがう。
居間はチョロ松さんがいる。彼がトイレに立った隙に、玄関から出て行こう。
お。さっそくトイレに立った気配。
私はトントントンと階段を下り、無人の居間をすりぬけ、玄関の扉を――。
目の前に赤い物体が立っていた。
「ただいまー、松奈! お兄ちゃんの出迎えに来てくれたの? 感激だよー!」
うわ、出た、おそ松さん!! いや痛いから抱きつかないで! いたたたた!
「え? 松奈!?」
と、トイレから走って戻ってくるチョロ松さん。チャックが開いてますがな。
そして一瞬だけ、おそ松さんとチョロ松さんの間に、
『てめえ、ちゃんと見張っとけよ』
『トイレくらい行かせろよ、クソ兄』
という感じの、鋭い視線のやりとりがあったような……。
「あー、では私は部屋に戻ってますね」
微妙な空気に怯え、コソコソと階段を上がると、
「松奈ーっ!! 暇なの!? 僕とトランプしない!?」
六つ子の部屋からトド松さんが顔を出した。私の手を引っ張り、
「ほらほら、退院したてなのに、動いちゃダメだよ。僕ね、松奈のためにデパ地下のパティスリーで新作のマカロンを買ってきたんだ。一緒に食べよ!」
え? マカロン!?……つ、つられてないっすよ!?
しかし私はフラフラとトド松さんに誘われるまま、六つ子の部屋にホイホイされた。