第3章 三ヶ月目のさよなら
畳の上に手足を投げだし――て、身体を伸ばしたら、傷がいたたたっ!!
若干転がってもだえつつ、久しぶりに見る松野家の天井の木目と、窓から吹く風、その向こうの青空、ふすま、障子の風景を堪能する。
部屋にはまた私の私物が戻されていた。
でも、これといってやることもない。
退院は出来たけど、しばらくは安静。
……なーんて、出来るわけないですね。
刺激のない生活が続いていたせいで、全身の神経が高ぶっている。
夏でも無いのに汗が出るし息が切れるし、心臓の鼓動も激しいけど、今すぐ出かけたい。
そっと起き上がり、ふすまをそーっと開ける。
すると。
「松奈ー! どうしたの!?」
真ん前に十四松さんがいた。相変わらず元気で、余り気味のそでをぶんぶん振っている。
「あ、いえ。久しぶりに家に戻ったし、散歩でもしようかと」
「分かった! じゃあ僕が連れて行ってあげる!!」
「は? え……いやーっ!!」
ヒョイッとおんぶされ、一気に階段を駆け下りられる。
そのまま外に出て、通行人の皆さんの視線を受けながら町内一周。
景色がびゅうびゅう後ろに流れ、気分はジェットコースター。
……つ、疲れた……楽しかったけど……色と光の刺激が……。
げに恐ろしき引きこもり生活。一歩も歩いてないのに、家についたときはヘトヘト。
「ちょっと、寝ます……」
「うん。おやすみ、松奈ー!!」
十四松さんはパタパタ去って行った。
私は畳の上でしばし、すやすや。
……起きた。壁にかかった時計を見ると、三十分しか経ってない。
そーっとふすまを開けると、もう十四松さんはいなかった。
よしよし。
私はそーっと、そーっと、階段を下りた。
そして玄関に続く居間に入ると、
「あれ、松奈、起きたの?」
居間で一人、チョロ松さんが求人誌を読んでいた。
「十四松と散歩に行ってたんでしょ? もう少し寝ていたら?」
あれを散『歩』と言って良いのかどうなのか。
「あははは。ご心配をおかけしました」
「どこに行くの? まさか外じゃないよね。退院したばかりなんだよ?」
ギクッ!
「いやあ、て、テレビでも見ようかと」
「分かった。じゃ、お茶を入れるね」
「ど、どうも……」