第3章 三ヶ月目のさよなら
……ただし、こうなった経緯の説明については、苦労を要した。
ただでさえニートを六人抱え、気苦労の多いお母様だ。
『いやー、宅の息子さんが未成年の女の子を拉致監禁しましてねー』なんて言えるかっ!!
結局お母様たちには、病院側にしたのと同じ説明をすることになった。
『一人暮らしを始めたものの、お金がないので行き詰まり、空腹で目まいがしてうっかりお腹を切ってしまった』と。
……色々と苦しすぎる。
実際お母様もそのままには受け取らなかった。
ただし幸いというか、さすがに息子が犯罪を犯したとは想像しなかったらしい。
私が『生家に戻ったものの、ひどい迫害を受けて逃げてきたのでは』と疑ったようだ。
松野家への滞在を改めて強く勧められた。私も断り切れず、あと一週間だけお世話になることをお願いし、もちろん了承いただいた。
で、一松さんはどうしたかって?
行方不明だ。
あのとき隙を見て逃げ出し、ずっと行方不明。
皆で心当たりのある場所を探してるけど、どこに行ったか分からないらしい。
どうしよう、私のせいで。
ずっと不安定だったし、自傷行為とか走られでもしたら私のせいだ。
そもそも、一松さんにああさせた原因を作ったのも私。
考えるのは一松さんのことだけだ。
早く探してあげないと……。
私も退院したら、皆と一緒に探そう。
……ということを言ったら、皆さんにものすごーく気の毒なものを見る目で見られた。
『あいつのことは考えなくていいから』
『怖い思いをしたな。もう怯える必要はないんだ』
『松奈はゆっくり休んでていいんだよ』
「いえ、別に気にしてませんけど。私が一松さんを追い詰めたのが悪かったんだし」
言葉を重ねたら、さらに逆効果だった。
『自分が悪いとか考えないで。松奈は何も悪くないから』
『一松兄さんは、僕らが近づかせないから安心していてね』
いや、ちょっと変になったかもしれないけど、私は全然正常ですからね!?
でもそれ以上、一松さんのことは話題に出せず、悶々としながら三日を過ごし、無事に退院となった。
お世話になった看護師さんには『傷に響くから、丸まって寝ちゃダメよ』となぜか何度も言われた。
私はいつもちゃんと身体を伸ばして寝てるのに。謎である。