第3章 三ヶ月目のさよなら
スマホからはすぐトド松さんの声の真剣な声が、
『一松兄さんは今どこ?』
「料理を作ってます。しばらくは戻ってこないって。でも、ここがどこなのか私にも……」
『心配しないで。電源入れっぱなしだったでしょ?
GPSでそっちの居場所はもう分かってるから』
え? そうなの? スマホすげー!
『おそ松兄さんとカラ松兄さんが今、車で全力でそっちに向かってる。
多分、あと数分で着くから、それまで一松兄さんをごまかして!』
「分かりました……こっちは私に――」
「やっぱもう少し遠くを、隠れ家に選ぶんだったよな」
手からスマホが滑り落ちる。
終わった。全部。
振り向くと、一松さんがほの暗い顔で腕組みをしていた。
ただし、その手には……。
「俺が部屋の鍵をかけない時点で、おかしいとか思わないと」
包丁を持ったまま、一歩、私に近づく。
『一松兄さん!? 一松兄さん!!』
床に落ちたスマホからトド松さんの声が聞こえる。
『トド松、代われ! 一松! おまえのやってることは犯罪だぞ!!』
チョロ松さんの怒声。
「犯罪? 松奈はどこにもいない子だ。殺したって事件にならないよね」
と一松さんが私に包丁を向ける。私は後じさった。
馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ!! 私も、一松さんも。
『……僕に貸して! 一松兄さん、こんなの止めよう? また皆で遊ぼうよ!』
十四松さんがつたなく呼びかけてくる。
「松奈が帰ったら、もう遊べないだろう……。
俺は、犯罪だろうと何だろうと、松奈にいてほしいんだっ!!
取れよ! 俺をこんなにおかしくさせた責任をっ!!」
もう言ってることが無茶苦茶だ。
一松さんはスマホを踏みつけ、それは永遠に動かなくなる。
「一松さん……」
私はポロポロ泣いていた。やっぱり、心のどこかで嬉しい。
私の感性もおかしくなってるのかもしれない。
そして玄関の方からドンドンドンという音。
また私の目から涙があふれる。
ずっと逃げたいと思ってたけど、この生活を続けたいと思っている自分も確かにいた。
「あなたが、好きです……すごく。世界の誰よりも……だから……」