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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第3章 三ヶ月目のさよなら



 そしてハッとしてスマホの日付を確認する。
 何てこった。私が帰る予定の日まで、あとたった十日しかない。
 でも、まずはここから出ないと。

 ……電話アイコンを押そうとした指が止まる。
 一瞬だけ、連絡を止め、このままここにいようかという誘惑が頭をもたげたのだ。
 でもそれだけはダメだ。

 もう私たちはダメかもしれない。
 私も、松野家にいられない。
 でも一松さんだけは……ちゃんとした日常に戻ってほしい。
 バイトだって始めたんだ。私無しでも、きっと六つ子に戻れる。
 だって一松さんには五人の仲間がいるんだもの。
 私はそう信じてる。

 そして電話アイコンを押す。
 スマホから、泣きそうになるくらい懐かしい呼び出し音が響く。

 そして、ついに着信画面に切り替わった。

『…………』

 向こうはしゃべらない。
 誰がかけてきたか、警戒してるんだろう。
 返答しない相手に、私はすぐ呼びかけた。

「松奈、松奈です! 私、松奈です!」

『……松奈っ!?』

 そう答えたのは――。


 そう答えたのは、トド松さんだった。

『松奈、松奈なんだね!? みんな! 松奈から電話があったよ!』
 同時に、トド松さんの背後から歓声が上がる。


 発端は、一松さんが家から持ってきた漫画本だった。
 きっと他の兄弟は、一松さんの動向を気にしていたんだろう。
 でも猫っぽい一松さんだ。尾行は上手くまいたに違いない。

 そして兄弟は困った挙げ句、部屋の長編漫画が一冊ずつ、順番に無くなっていくことに気づいた。

 だから次に持って行かれる漫画に目星をつけ、落書きに紛れて私へのメモを書き込んだ。

『松奈』『いる?』
 私はそのすぐ近くに、

『いる』『監禁』『出たい』
 と落書きに見せかけて返した。

 そして松野家の人たちは、全てを察したのだ。

 でもその場での一松さんへの追及は、避けられた。
 私の安全を考えてのことかもしれないし、兄弟愛ゆえだったのかも。

 代わりに、別の方法が採用された。

 私の部屋の整理を持ちかけ、ありもしない私の『大切な私物』をワザと『見つけた』。

 元恋人として一松さんが処分を託された――皆が信じた通り、私の元にそれは来た。

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