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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 十四松さんは……お金を持っているのか心配なので止めとこう。
 やっぱりトド松さんかな。『いいよー』とニッコリ笑って貸してくれそう。
 うん。トド松さんにお借りしよう。トド松さん。

 私はドキドキしながら廊下を歩く。

 一松さんはダメ。

 もしトド松さんが出かけた後ならチョロ松さん。
 チョロ松さんも出かけていたらおそ松さん。

 おそ松さんまで不在なら、最後に残った十四松さんに頼るしかない。

 お願いだから、どうかパチンコ屋に行ってませんように!!

 決意して、そろそろそろ~と、六つ子さんの部屋のふすまを開けた。
 可愛く、可愛く、可愛く!

「あのぅ。すみません。少々お金をご用立てしていただきたく……」


「あ?」


 ……なぜあんた一人が残ってるんだ、一松さん。

 サンダルの音が昼間の路上に響く。
 私と一松さんは町を歩いていた。本日は『DAT』の文字が書かれた上着である。
 DATの意味……まあ、考えないことにしよう。
 相変わらず怠そうな猫背だ。半眼で私を見、
「てか金、持ってないの? ここに来るまでの旅費とかあるでしょ?」
 くっそー。パチンコや飲み屋で使いまくるクセに、何で証明写真代程度のお金をケチるんだ!
「い、いやあ。使い切っちゃいまして一銭も残って無くて。あはははは」
 お金を貸していただく手前、愛想笑いである。
「もちろん、仕事をしてお給料日になったらお返ししますので!」
「当たり前。年利54.75%ね」
「サラ金!?」
 とか言っているうちに、路上の証明写真機を見つけた。
 私は写真機前の鏡で手ぐしで髪を整える。うーむ。疲れた顔をしてるなあ。
 いや疲れたと言うより……。

「まだ?」

 うわ! 後ろで腕組みしてる一松さん。
 ブツブツ言う彼から千円札を一枚いただき、どうにか証明写真を撮る。

「うーむ……」
 出てきた写真は、やはり不満がある。ものすごく疲れた笑顔というか。
 まあ証明写真って、そんなものだろう。
 お釣りをお返しし、一松さんに頭を下げる。
「ありがとうございました」
 一松さんはお釣りをポケットに突っ込み、
「ん。じゃ、俺行くから」
「どちらに?」
「適当に散歩」
 と、私に背を向ける。

「では私はこれから面接に行きますんで」

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