第1章 最初の一ヶ月
十四松さんは……お金を持っているのか心配なので止めとこう。
やっぱりトド松さんかな。『いいよー』とニッコリ笑って貸してくれそう。
うん。トド松さんにお借りしよう。トド松さん。
私はドキドキしながら廊下を歩く。
一松さんはダメ。
もしトド松さんが出かけた後ならチョロ松さん。
チョロ松さんも出かけていたらおそ松さん。
おそ松さんまで不在なら、最後に残った十四松さんに頼るしかない。
お願いだから、どうかパチンコ屋に行ってませんように!!
決意して、そろそろそろ~と、六つ子さんの部屋のふすまを開けた。
可愛く、可愛く、可愛く!
「あのぅ。すみません。少々お金をご用立てしていただきたく……」
「あ?」
……なぜあんた一人が残ってるんだ、一松さん。
サンダルの音が昼間の路上に響く。
私と一松さんは町を歩いていた。本日は『DAT』の文字が書かれた上着である。
DATの意味……まあ、考えないことにしよう。
相変わらず怠そうな猫背だ。半眼で私を見、
「てか金、持ってないの? ここに来るまでの旅費とかあるでしょ?」
くっそー。パチンコや飲み屋で使いまくるクセに、何で証明写真代程度のお金をケチるんだ!
「い、いやあ。使い切っちゃいまして一銭も残って無くて。あはははは」
お金を貸していただく手前、愛想笑いである。
「もちろん、仕事をしてお給料日になったらお返ししますので!」
「当たり前。年利54.75%ね」
「サラ金!?」
とか言っているうちに、路上の証明写真機を見つけた。
私は写真機前の鏡で手ぐしで髪を整える。うーむ。疲れた顔をしてるなあ。
いや疲れたと言うより……。
「まだ?」
うわ! 後ろで腕組みしてる一松さん。
ブツブツ言う彼から千円札を一枚いただき、どうにか証明写真を撮る。
「うーむ……」
出てきた写真は、やはり不満がある。ものすごく疲れた笑顔というか。
まあ証明写真って、そんなものだろう。
お釣りをお返しし、一松さんに頭を下げる。
「ありがとうございました」
一松さんはお釣りをポケットに突っ込み、
「ん。じゃ、俺行くから」
「どちらに?」
「適当に散歩」
と、私に背を向ける。
「では私はこれから面接に行きますんで」