第1章 最初の一ヶ月
背後を睨むと、興味津々な面々が、
「いやだって、せっかく松奈が来たのに、俺たち君のことを何も知らないんだもの」
実を言うと私にも自分が分からないんです、おそ松さん。
「フッ。過去なんて必要ないぜ、松奈。これから輝かしい未来を創ればいいんだ。
俺たち……六人の兄とな!」
六人全員が×××の場合、未来は暗黒に包まれていないでしょうか、カラ松さん。
「ほら、松奈ちゃんだって、こうやって働こうとしている。俺たちも行動する時だろう!」
毎度やる気に満ちあふれている発言をされる割に、なぜか無職なんっすよね、チョロ松さん。
「…………」
頼むから何か嫌味を言って下さい、一松さん。負のオーラを揺らめかせないで。
「松奈、松奈、松奈! この字、何て読むの? ねえねえねえ!?」
うっさいわ、十四松さんっ!!
「へえ~、松奈ちゃん、○○中学校なんだ。やっぱり可愛い子は、いい学校を出てるんだね!」
トド松さん、これ私がねつ造した、存在しない中学校なんですが。
と、全然集中出来ないでいると、
「やっぱり履歴書を書くのって面倒くさいよな。何で修正液はダメなんだろう」
「書くだけで疲れるよね。空欄をどうやって埋めるかとかさ~」
「面倒くせえ」
真後ろで雑談を始めるんじゃない!!
ちっとも履歴書が進まなかった。
…………
一時間後。
「で、出来たあ!!」
やっと履歴書が完成した。
私をいじるのに飽きた六つ子がようやくそれぞれに散り、集中力を取り戻せたのだ。
何度も見直して誤字がないか確認し、一息つく。
「さーて、これで完璧!」
――じゃない。あとは証明写真だ。
私は自分の服のポケットというポケットを探る。
むろん、一円だって入っているはずがない。
……お母様もお父様もお仕事。夜にお帰りになる。
苦しいが、ここは六つ子の誰かからお金を借りるしかない。
先ほど×××と蔑み、クソ生意気な態度を取った自称妹が。
誰に頼もう。
まず一松さんは論外。とことん警戒されてるし。
長男のおそ松さんか、一見しっかりしているチョロ松さん?
うーん。二人とも表面上は愛想良くしてくれるけど、どうなんだろう。
まだ私のことを疑ってる可能性がある。止めた方が無難かな。