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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 目が覚めると異世界であった。
 実際の意味でも、感覚的な意味でも。
 
 ……どういうことか。
 私が記憶喪失の状態で目を覚ましたとき、そこはどこかの研究室であった。
 そして、
「成功だス~!」
「成功だよ~ん」
 と踊り狂うパンツ一丁の男と、口が異様にデカいメイド服の『男』がいたのである。

「……!?」

 ここは異世界か。異世界だ。何だろう、あの変質者の方々は。
 そして私は誰。
 ……私? 私は、寝かせられていた白の硬いベッドから身を起こす。
 自分の身体を見下ろすとさして大きくもない胸が見える。
 さらに視線を下ろせば女性の証が。

 ……え? 待って下さい。何ですか、この状況。

 落ち着け。落ち着け。もう一度確認しよう。
 一つ。私は全く知らない研究所のような一室にいる。
 一つ。部屋にはなにがしかの『成功』に狂喜乱舞する変質者二名。
 一つ。私は全裸でベッドの上に。

 ……そして私は。

 私は誰? 名前は……歳は……。ええと……ええと……。
 茫然自失する私の真横で、白衣にパンツ一丁の変質者が言う。

「別の次元から人間を転送することに成功しただス~!」

 そして。私は。

「いやあああああああぁーっ!!」

 むろん絶叫を上げた。

 …………

 …………

 それから数時間後、私は呆然と昼間の町を歩いていた。

 服は着ている。平凡な顔と相まってイマイチなセンスではあるが。
 だが似合っているかどうか、気にかける余裕もない。

 こう語っている私は誰で、研究所はどうしたのかって?
 まあ、ここに至るまでの経緯は後でお話しいたそう。

 とにかく今、私は『ある目的のため』、昼間の町を歩いていた。
 夢遊病者のごとき私の目に見えるのは、ごく普通の町である。

 だが『違う』。

 人々は日本語を話す。ネット用語も聞こえる。スマホを持っている。
 スタバァカフェもあるのに。
 何か違和感がある。どこか昭和臭が漂うというか、平成の皮をかぶった昭和というか、そんな世界であった。

 ここは私が元々いた日本と、非常によく似ている別世界らしい。
 私はあンのパンツ一丁の研究者に、別の世界から実験で連れてこられた。
 それでこれからどうするのかというと……。

「……ん?」
 
 すぐ横のパチンコ屋の自動ドアが開き、思考が中断された。

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