第1章 最初の一ヶ月
目が覚めると異世界であった。
実際の意味でも、感覚的な意味でも。
……どういうことか。
私が記憶喪失の状態で目を覚ましたとき、そこはどこかの研究室であった。
そして、
「成功だス~!」
「成功だよ~ん」
と踊り狂うパンツ一丁の男と、口が異様にデカいメイド服の『男』がいたのである。
「……!?」
ここは異世界か。異世界だ。何だろう、あの変質者の方々は。
そして私は誰。
……私? 私は、寝かせられていた白の硬いベッドから身を起こす。
自分の身体を見下ろすとさして大きくもない胸が見える。
さらに視線を下ろせば女性の証が。
……え? 待って下さい。何ですか、この状況。
落ち着け。落ち着け。もう一度確認しよう。
一つ。私は全く知らない研究所のような一室にいる。
一つ。部屋にはなにがしかの『成功』に狂喜乱舞する変質者二名。
一つ。私は全裸でベッドの上に。
……そして私は。
私は誰? 名前は……歳は……。ええと……ええと……。
茫然自失する私の真横で、白衣にパンツ一丁の変質者が言う。
「別の次元から人間を転送することに成功しただス~!」
そして。私は。
「いやあああああああぁーっ!!」
むろん絶叫を上げた。
…………
…………
それから数時間後、私は呆然と昼間の町を歩いていた。
服は着ている。平凡な顔と相まってイマイチなセンスではあるが。
だが似合っているかどうか、気にかける余裕もない。
こう語っている私は誰で、研究所はどうしたのかって?
まあ、ここに至るまでの経緯は後でお話しいたそう。
とにかく今、私は『ある目的のため』、昼間の町を歩いていた。
夢遊病者のごとき私の目に見えるのは、ごく普通の町である。
だが『違う』。
人々は日本語を話す。ネット用語も聞こえる。スマホを持っている。
スタバァカフェもあるのに。
何か違和感がある。どこか昭和臭が漂うというか、平成の皮をかぶった昭和というか、そんな世界であった。
ここは私が元々いた日本と、非常によく似ている別世界らしい。
私はあンのパンツ一丁の研究者に、別の世界から実験で連れてこられた。
それでこれからどうするのかというと……。
「……ん?」
すぐ横のパチンコ屋の自動ドアが開き、思考が中断された。