第3章 三ヶ月目のさよなら
そしてまた、一松さんがやってきた。今日はつなぎ姿だ。
扉が開き、バッグを持って入ってくる。
私の無事を確かめ、内鍵をかけ、室内を点検。
「おかえりなさい。一松さん」
「ただいま、松奈」
私は一松さんの顔をじっと見た。じーっと見過ぎただろうか。
「どうしたの? ここにいてくれるのなら、もう乱暴なことはしないよ」
「いえいえ。外に出るわけないじゃないですかー。すっかり慣れちゃったし」
と、ニコニコ。
そして一松さんのキスを受け止める。
一松さんはテーブルを見る。手をつけた様子のない水と食料を見て、ため息。
「まず水ね、それと何か食べて」
いつも通り、私は一松さんがいない間、飲まず食わずだ。
私はミネラルウォーターのフタを開け、浴びるようにがぶがぶと飲む。
続いてチョコレートをかじりながら、
「今日は荷物が多いんですね」
と、首を傾げた。一松さんは、
「うん。ここに引っ越すから、自分のものをちょっとずつ移そうと思って。
とりあえず今日は、絶対に必要なものだけを持ってきた」
「本当ですか?……嬉しい!」
一松さんはバイトが続いているんだろう。
多少、顔つきがしっかりしてきたように思う。
そう言うと『皆も驚いてる』と、ちょっと得意そう。私はニコニコし、
「この前の漫画の続きはありますか?」
「すぐそれだな。あと、今日は良い物を持ってきたから」
とバッグを漁る。
「え? 何ですか? 札束? 金塊?」
「はいコレ」
私のボケを見事にスルーしてくれ、一松さんは私に箱を渡す。普通の箱だ。
100円ショップにありそうな、安い木製の。ちょっとしたことで壊れそう。
開けて見ると、小説が数冊、手鏡、日用小物が数点入っていた。
「これ……」
「松奈のでしょ? 松野家に忘れてきたでしょ?」
「…………」
「皆で松奈の部屋を整理したんだ。母さんはまだ戻ってくるかもって渋ってたけど。
他の奴が――誰だったっけな――『思い出すと辛いからそろそろ片付けよう』って言い出して。
そしたら、そいつがこれを見つけて。俺が処分を任されたんだ」
「…………」
私は箱を受け取り、じーっとそれを眺め、顔を上げた。
そして顔を上げ、
『いえ、これ、私のじゃないですよ?』
……とは言わなかった。