第3章 三ヶ月目のさよなら
「……あ……」
イタズラっぽく身体に触れられると、身体の芯がじわりと熱くなる。
「松奈……」
キスをされ、うっとりと受け入れる。
でも一松さんの次の言葉に、我に返った。
「俺、家を出ようかと思ってる」
「え?」
聞いた言葉が信じられず、一松さんを見上げる。
一松さんは私の頬を撫で、
「松奈が心配で仕方ないし。ずっとそばにいてあげたいから」
それは……良いことなんだろう。
ニートで半引きこもりだった四男がバイトをし、家を出て自立する。
多分家族も応援してるはずだ。
――でも、それでいいの?
「嬉しい……いつごろになるんですか?」
戸惑いつつも、そう答えた。
「今すぐじゃないけど、出来るだけ近いうちに」
そう言って一松さんはまた私にキスをした。そして本格的に愛撫を始める。
「あ……」
身じろぐと、足首につけられた手錠の鎖が小さく鳴った。
本当に、いいんだろうか。それで。
…………
一松さんは帰りじたくをしている。
「ありがとうございます。続きをお願いしますね♪」
松野家の漫画本を渡し、ニッコリ。
「いつも一冊ずつ持ってきてあげてるでしょ」
と言って、一松さんはそのまま漫画本をバッグにしまう。
私はそれを、じっと眺めた。
そして振り向いてもう一度私にキスをする。
一旦お別れ。そしてまた長い長い退屈な時間がやってくる。
「良い子にしてて」
「いつも良い子ですよ?」
「ウソつくなよ」
一松さんは笑い、私をもう一度抱きしめる。
私たちは舌を絡め、別れを惜しんだ。
「じゃあね」
そして扉が閉まり、鍵のかかる音。
足音が遠ざかっていく。
「…………」
私は気が抜けたようにベッドに横たわり、天井を見上げる。
革手錠の鎖が重い。ずいぶんと手首が細くなったものだ。
ストレッチとかしないと。
けれど考えるのは一松さんが家を出ることばかり。
一松さんが六つ子の枠から分離するのは、間違ってると思っていたけど。
彼が自立して社会と接点を持って生きていくのなら、誰がどう見ても望ましいことだ。
ただ、その目的が私の監禁というのは――。
考えるのが面倒くさくなり、私はパズル本を出す。
ペンを出し、問題を解き始めた。
現金なもので、今回はスラスラとペンが走った。