第3章 三ヶ月目のさよなら
「一松さーん」
頬をペチペチ。すると奴は眠そうに目を開け、
「ごめ……バイトで……つかれ……」
すうすう。しかし私はガクゼンとした。
……!? ば、バイト……だと……!?
どうしよう。謎の焦りと敗北感がハンパない!
この社会不適応人間が、いったいいかなる職に就けたというのだ!
天変地異か!? この世の終わりかっ!?
「……馬鹿にされてる気がする」
薄目を開け、コツンと頭を叩かれた。能力者か!
一松さんはやはり眠そうにしながらも、ボソボソと、
「ここにずっといることを考えたら、ある程度の収入は必要になってくるし」
待て。だからコレ、期間限定監禁じゃなかったのか。
もう隠しもしませんな、一松さん。
「社会復帰おめでとうございます! いや復帰も何も、最初から社会に適合しておりませんか!」
「年上を馬鹿にしない」
いったあ! さっきより強く叩かれたー。
「しかし、よく頑張りました。頭を撫でて褒めてさしあげます!」
わしゃわしゃわしゃと髪を撫で繰り回すと、ちょっと嬉しそうに笑う声。お?
「良かった。松奈なら喜んでくれると思った」
と、抱きしめてくる。確かに体型に変化が出て来てる気がする。
私は改めて身体をなでなで。
「松奈。くすぐったい」
やせたのではなく、ニート生活で出来たぜい肉が落ちてきただけなのか。
良きかな良きかな。
しかし『社会と接点を持てば、この事態の異常性に気づくかも』と思った時期もあったけど、全然変わらないなあ。これは相当重症なのかもしれん。
「でもいきなりバイトとか、大丈夫なんですか? その、色々と……」
松野家のぬるま湯につかってる時点ですら、ハンパないコミュ障だった。
無理にバイトなんかして、平気なんだろうか。
「大丈夫だよ。松奈は何も心配しないで」
全然大丈夫じゃなさそうだけどなー。
そして私はまた抱きしめられ……首筋にキスをされる。
ん? 一松さんが起き上がると、私に覆い被さってくる。
「お疲れなんじゃないんですか?」
「心配させてるみたいだから、もう少し元気なとこを見せようかと」
「休みましょう、休みましょう。明日のために」
「嫌だね」