第3章 三ヶ月目のさよなら
私はその漫画は一旦閉じ、
「××××の○巻は無いんですか?」
別の漫画の名を上げた。一松さんは非常食をクローゼットにしまいながら、
「あれはダメ」
うーむ。時事ネタを巧妙にギャグに取り入れる作風だったからなあ。
しかしそんなのまで警戒するって、どれだけなんだ。
腕組みしてうなっていると、一松さんが別の漫画本を渡してくれた。
ちょっと絵柄がレトロで昭和っぽい雰囲気がある。
「その代わり、こっちは持ってきたから。次はこの巻だよね?」
「ありがとうございます!」
それは、松野家六つ子所有の長編漫画の一冊だ。
一冊ずつ順繰りに持ってきてくれてるのだ。
「ありがとうございます♪」
さすがにこちらは、奥付を切り取るサイコな真似はしていない。
しかし六人で回し読みしてるだけあって、相変わらずボロボロ。
あちこち落書きだらけである。
鼻歌まじりに読んでると、ヒョイッと取り上げられた。
「かーえーしーてーくーだーさーいー」
ジタバタして不満を表明していると、
「布団干すからどいて」
「ええ。私の唯一の居場所を!?」
「違うでしょ。いいから、その間お風呂に入ってて」
「へーい」
フラフラしつつ、バスルームに押しやられる。
そして革手錠を外された。
自由になった両手で、大きく伸びをした。うわー、肩がバキバキ言っている。
「三十分でいい?」
「はいです」
返事をすると、風呂場のドアが閉まり、鍵の音。
いったいどれだけ鍵を持ってるんだか、と思いながら、私は服を脱いでいった。
「…………」
シャワーヘッドからごうごうと出る湯に当たりながら目を閉じた。
思い返すのはさっき読んだレトロ漫画の内容。
いや、漫画の内容はどうでもいい。それよりも。
私はゆっくりと目を開ける。
そして。
…………
…………
「松奈」
名前を呼ばれ、髪を撫でられるのがくすぐったい。
私たちは暗い部屋のベッドの中で、互いに何も着ていない。
食事をすませ、愛し合った後だった。
一松さん、やはりやせただろうか。
身体のラインをなぞり、抱きしめると、一松さんが小さくあくび。
「一松さん?」
彼は眠そうだ。いつもみたくキスをしてくれない。
「一松さーん」