第3章 三ヶ月目のさよなら
「おかえりなさい」
そう言うように言われているので、そう言った。
「ただいま」
一松さんはまず内鍵をかけ、そして室内に異常がないかチェックする。
「本はちゃんと片付ける」
「はーい」
ため息をついて、私が放り投げたパズル本を拾い、テーブルの上へ。
そして放置された食品に気づくと、しまい出した。
食べていないことに、もう驚きもしていないようだ。
これらは万が一の際、一松さんが来られなかったときの非常食でもあるし。
「水、飲んで」
ミネラルウォーターのボトルを渡される。
「起きられませーん」
まだ若干、目まいの余波が残ってる。
一松さんはため息をつき、私の背を支え、手を引っ張ってくれた。
「目まいは大丈夫?」
「ありがとうございます」
気持ち悪いのがおさまってきたので、お礼を言ってペットボトルを受け取る。
「いただきまーす」
フタを開けて飲む。一度飲むと、なぜか止まらず500mlを一気に飲んでしまった。
一松さんはビニール袋から薬だの日用品だのを取り出しながら、
「声、かなりかすれてたよ。また俺が帰ってから、何も取ってなかったんだ」
「うーん。お腹が空いたら取ろうと思ってたんですが……。
でも寝てばっかりじゃ意外に平気なんですよ。それに太るのも嫌だしー」
あははと笑う。
「鏡、見てないの? またやせてる。これも食べて」
「そうですかねー……んぐ」
口にチョコレートを入れられた。うわ、甘い! 脳がじーんとしびれる!
あれ? 何か胃がものすごく動いてる感じ。
身体が一気に覚醒して、目の前がサーッと鮮やかになったような。
もしかして私、低血糖っぽくなってた?
どれくらい糖分足りてなかった? どのくらい食べてなかった?
「あの、一松さんが前回いらっしゃったのって、いつでしたっけ?」
日単位で飲み食いしてなかったのなら、ちょっとヤバいかも。
「教えない」
「えー」
元気になってきたので、立ち上がり、よろめきながら一松さんの回りをウロウロ。
「一松さん、何か持ってきてます?」
「はい。読みたいって言ってたやつ」
新刊の漫画が渡された! 続きが気になってたんだ!
ちょっとテンションを上げ、パラパラとページをめくる。
そして最後までめくり――手が止まる。
奥付のページが無い。カッターできれいに切り取られていた。