第1章 最初の一ヶ月
「……突然上がり込んできて、他人の家の事情に首を突っ込んでるんじゃねえよ」
視線を合わせず吐き捨てる一松さん。だが私は優しく、
「ええそうですね。話をそらさず、自分のペースで頑張れば良いと思いますよ!」
ファイト!!と、笑顔で応援すると、
「いったぁ……!! 何で俺を殴るんだよ、一松っ!!」
顔面を殴られたカラ松さんが抗議されている。
一松さんは彼を睨み、無言でこぶしを震わせている。
男のご兄弟って突然ケンカをするものなのかな。怖いなあ。
「ねえ。あの子、俺たちが×××って分かったとたん、態度が大きくなってない?」
おそ松さんがチョロ松さんにボソボソと耳打ちしている。
ギクリ。
うう、私め。つい優越感から調子に乗ってしまった。
実際には私は彼らよりさらに底辺の人間である。
家族になりすまし、赤の他人の家で無銭飲食してる時点で犯罪者だ。
内心あわあわしていると、トド松さんが履歴書をのぞきこみ、
「松奈ちゃん。空欄だらけじゃない? ほら、生年月日も書き忘れてるよ」
ギクッ!!
いやあ。記憶喪失で自分の年齢すら思い出せませんで☆
なんて電波なことを言えるかっ!!
……カラ松さん、何を受信したかは存じませんが、こちらに片目をつぶってこないで。
「あ、そうでしたね。あははは。ありがとうございます」
ちゃぶ台に座り直し、ボールペンを握る。
うう、緊張するなあ。やっぱり鉛筆で下書きをしようか。どうしよう。
「そういえば松奈っていくつなの?」
「経歴など必要ない。人は皆、 レット・イット・ビーなのだから!」
「横文字を無理に入れても格好良くならないからね、カラ松」
「自己PRも書いてないぜ。ほれ、図々しくて無神経って書けよ」
「応募動機は何? 野球? やっぱり野球かな!?」
「分からないことがあったら何でも聞いてね。僕ら、履歴書を書く達人だから!」
うっるさいなあ。
あと履歴書の達人という時点で、何かがおかしくありませんか?
うう、気をそらすな。学歴学歴……出身小学校なんて分かるわけがないだろう。
面接相手がわざわざ調べたりしないことを祈りつつ、適当な学校を書いていく。
「……ていうか、何、六人そろってのぞきこんでくるんです」