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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第3章 三ヶ月目のさよなら




 ガンっ!

 鍵がドアにぶつかる音。そ、そうだ。無施錠なわけがないよね。
 こっちの鍵もちゃんと開けないと。
 と、暗闇の中で震えながらチェーンを外し、サムターンを……。
 あれ……ない?
 手探りでノブの上を探り……鍵穴にたどり着く。
 
 そして足下から震えがこみ上がる。
 
 まさか、このドアも内鍵?

「本気で逃げるなら、鍵で俺を部屋に閉じ込めるくらいしないと」

 チャリっと鍵の音。

 振り向きたくない。でも振り向かないでいると靴音が近づいてくる。
 服を着る程度には余裕だったみたいだ。

「馬鹿なの? あの部屋以外も対策をしてる可能性を、全然考えてなかったの?」

 肩に手が置かれる。

「電車で寝てる人がよくヨダレを垂らしてたりするでしょ」
「は?」
「人間って、寝てるときはヨダレの飲み込みが悪くなるんだよ。
 だから本当に寝てるか確かめたいなら、喉の動きを見るのが常とう」
 とボソボソ呟き、クッと笑う。

「でもワザと寝返りを打ったときの松奈のビビり顔は良かったよ。
 可愛すぎて、あの場で犯そうかと思ったくらい」

 そして凍り付く私の耳元でささやいた。

「分かってるよね? 松奈に裏切られて俺、すごーく怒ってるから」

「あ、あ、あの、い、一松、さん……私……」

「うん。いい声だ。じゃあ戻ろうか」


 その声には優しさも甘さも、一片も含まれていなかった。

 逃げようとした。見事に失敗した。
 あまりにも頭の悪い、自分でも呆れかえるようなことで失敗した。
 引っ張って連れ戻される間、どんなに言い訳しても、一松さんの態度に変化はなかった。
 怖いくらいに無表情だった。

「入って」

 そして部屋に入れられ、ドンッと乱暴に床に突き飛ばされた。
 私は終わりを予期した。
 殴られるか蹴られるか、もっとひどいことをされるかと思った。

 実際は殴られも蹴られも、切られも絞められもしなかった。

 でももしかしたら、そっちの方がマシだったかもしれない。

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