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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第3章 三ヶ月目のさよなら



 首を振り、胸を叩き、やっと離してもらえた。
「ケホッ、ゴホッ……何を、考えて……」
 唾液をぬぐうと血が混じっていた。涙目で一松さんを見上げる。
 同じく口元の血を……こちらはぬぐっているのではなく、舐めている。
「急に松奈をいじめたくなって」
 いや、現在進行形でいじめてないっすか? 
「ベッドに行こうか」
 手錠の鍵を取り出しながら、何でもないような顔で言う。
 私は口の中の苦みを顔に出さないようにし、うなずいた。

 …………

「何も心配しなくていいよ」

 暗闇の中、一松さんは私に腕枕しながら言う。

「全部俺がやるから。俺がずっと松奈の世話をするから。
 だから外に出ようとしないで、ここで俺が来るのを待っていて」

 私は裸身をやや肌寒く感じながら、無言でうなずく。
 一松さんに頬を撫でられるままになっている。
 そうしていると腕枕がゆっくり外され、一松さんが起き上がり、私の両脇に手をつく。
 脇腹を撫でると『何?』と、くすぐったそうな顔になる。
 一松さん、以前よりやせてないだろうか。

「今は不便だけど、もう少し居心地が良くなるようにする。
 もっと広い部屋に移ってもいいかな……」
「本当ですか? すごく嬉しい!」
 と微笑んでから、内心でハッとする。
 いやいや。DVDプレーヤーを速攻で取り上げられたことを忘れてないか。
 夕ご飯は舌の傷のせいで少し辛かった。

 ここに来て以来、一松さんの感情の波が激しい。
 元々不安定気味だったけど、加速度がついてる気がする。

「だからここにいてね。ずっとここで俺だけを見て、俺だけを待っていて……」

 ここにいるのは『一ヶ月だけ』だったはず。

 でも今、それを口にしたら一松さんが確実に不機嫌になる気がする。
 痛いことをされるかもしれない。
 
『それに私も、ここにいた方が楽じゃない?』
 ふと、心にそんな考えが浮かぶ。

 退屈は退屈だけど、寝ていれば、時間は進む。
 一松さんを悲しませるのも嫌だ。
 何もかもやってくれるって言うなら、その好意を裏切るのも悪い気がするし。

 そこでハッと我に返る。

 落ち着け、松奈。落ち着いて、ここを出よう。
 
 正常と異常の思考が交錯する。

「松奈。もう一回、しよ?」

 甘くささやかれ、私はぎこちなく微笑んだ。

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