第1章 最初の一ヶ月
「立てるか、妹よ? さあ、兄の手につかまるんだ。
遠慮はいらない。俺たちは……もう本当の家族なのだから!」
眉の角度が鋭いカラ松さん。私に手を差し出してくる。
「それで何をしていたの? 松奈ちゃん」
昨日、(比較的)真面目だったチョロ松さんが、私の手を取って助け起こしてくれる。
私が返事をする前に、チョロ松さんはちゃぶ台にあるモノに目をとめ、
「これ、履歴書?」
全員の動きが止まった。
…………
大きめちゃぶ台には六人分の朝食。
六人はボソボソとそれをつついている。ハシの進みが悪いなあ。
やはり二日酔いなんだろうか。味噌汁を温めた私は首をかしげる。
「ええ、ですから働こうと思って、とりあえず履歴書だけでも書こうと」
不思議なことに、この家にはあちこちに履歴書がある。
お母様は働く必要はないと言って下さったが、それでイイわけがない。
「働かざる者食うべからず。ですからね」
『……っ!!』
六人の同じ顔が一斉に動きを止める。
その顔は痛苦に満ち、さながら全身に矢を受けたかのよう。
そして私はハッとする。何てデリカシーのないことを!
彼らは無職なのだ!!
「す、すみません、もちろん世の中には色んな事情で、働きたくとも働けない方もいますから! 皆さんもそうなんでしょう!?」
『……っ!!』
さらなる矢を受けたような顔。
「でなければ親御さんに苦労をかけながら、昼間からパチンコに入り浸り、深夜に飲んだくれて帰宅し親に介抱させるとか、人としてあり得ないですよね!」
『――――っ!!』
六人全員が、心臓を止められたようにぶっ倒れた。
…………
食事も片付いた居間の和室。
私は正座をし、居並ぶ皆さんに頭を下げる。
「すみませんでした。皆さんが真性の×××と知らず、傷つけるようなことを言ってしまって。
反省しています。×××××とか口に出したりしません! どうかお許しをっ!!」
「君、それワザと言ってるよね!? 口に出さないってことは心の中では思ってるってことだよね!?」
チョロ松さんが怒濤(どとう)の勢いで言う。ツッコミの切れる人だ。