第3章 三ヶ月目のさよなら
初日はパニクっていた。昨日は一松さんが来てくれた。
今日はまだ一松さんが来てくれない。ストレスもピークである。
手を自由に動かし、好きなことをしたい。
外に出て動き回りたい。
「でもお腹もすいた……」
ノロノロと起き上がり、ベッドから下りる。
「……っ!」
動かした拍子にズキッと手首が痛み、顔をしかめる。
包帯をされているが、少し当たっても痛い。
一松さん、思ったより深く噛んでいた。
なるべく手首を動かさないように移動し、椅子に腰掛ける。
テーブルには紙皿と紙コップ。スポーツドリンクと栄養食品が用意されている。
今日はチョコ味かー。
もくもくと食べ、五分どころか三分で食事終了。
あまり味がしなかった。
紙の器をゴミ箱に捨てれば片付け完了。
はあ……とため息が出る。
松野家では楽しかったなあ。
お母様やお父様との楽しい食事。
六人のお兄さん達とのにぎやかな食事。
庭の見える和室で、鳥の声を聞きながら、のんびり静かに食事。
どれも大好きだった。何でこうなったんだろう。
痛む手首を押さえ、食後のあれこれを終わらせ、ベッドに腰掛ける。
退屈で気が滅入る。気が滅入るけど退屈。
猫の本を開き、数ページめくって本を閉じる。
「外に出ないと……」
立ち上がり、部屋のあちこちを探る。
外と連絡出来そうな場所。何かないか……。
「やっぱり、ここしか無いですか」
あちこち探し回り、最後に、格子のはまった窓の前に立つ。
板が打ち付けられているものの、板と板の間にかすかな隙間がある。
この隙間から助けを求める手紙を……って、何か映画みたいだなー。
とりあえず窓だけでも開けてみよう。
「い、痛……」
手が自由なら五秒で終わる作業なのに、格子の間に手を入れるだけでも大変だ。
もう少し……痛……よし、手が届いた。開いた!!
そして窓を少しずつ……。
「おおー!」
外の風が吹いてくる。部屋のよどんだ空気が換気されていく!
空気の匂いをかぎ、耳をすます。うーん。静かだ。森の中でもないみたいだけど。
郊外の廃屋とかだろうか。余計に犯罪の臭い。
私は板と板の間の隙間に目をこらす。おかしいな。見えない。
板を押してみるか。何とか外れてくれたら――。
「逃げようとしちゃダメって、言わなかったっけ?」