第3章 三ヶ月目のさよなら
大声で怒鳴られ、ビクッとした。
それはあなたが怖いから……。
なのに癒えず下を向くと、自分の膝が震えているのが分かった。
すると一松さんの声が少し和らぎ、
「ごめん。強く言いすぎた。冗談だから顔を上げて」
本当に冗談? でも言われるまま、顔を上げる。
キスをされ、もう一度抱き寄せられた。
「良い子」
そう言われてホッとする。一松さんの怒りの波は去ったみたいだ。
でも一松さんは私を見下ろし、
「じゃ、今日は手錠をしたままやろうか」
「……え?」
一松さんは暗い笑顔。
「ウソをついていないんでしょ? じゃあ大丈夫だよね」
「……?」
何かおかしくないか? ウソをついていないのなら、何で手錠つきの×××がOKになるの?
そもそもウソって何に対してのウソだったっけ?
「嫌なの?」
一松さんの声がまた低くなる。
「い、いえ、そんなことは……!」
分からない。頭が動揺して、上手く考えが回らない。
お、落ち着け。そもそも何が怖かったんだっけ。
DVDですよ。機械を持って行かれると嫌だから……でも何で私、こんなに泣きそうなの?
よく分からない。
分かってるのは、一松さんが怒ると嫌だということだけ。
「はい、大丈夫です」
「松奈」
また、抱き寄せられてキス。良かった。もう怒ってないみたい。
ベッドの方に連れて行かれながら、私は安堵していた。
…………
目が覚めた。夜更けのことだ。
手首の痛みで起きたのかもしれない。今回は結局、手錠をされたままで最後までやられてしまった。もちろん、手首が無事ですむわけがない。
手当てがされたところに、また血がにじんでいた。
シーツにでも垂れたら大変だ。
私は起き上がってちょっと焦り、ベッドサイドのティッシュを慌てて口にくわえた。
口でぎこちなくティッシュに血をすわせ、一松さんが起きないかドキドキしながら横を見る。一松さんは私に腕枕をする態勢のまま、目を閉じていた。
私はホッとし……。
「…………」
床に脱ぎ捨てられた一松さんのつなぎを見る。
――今なら、バレずに鍵を探せるんじゃないだろうか。