第3章 三ヶ月目のさよなら
「松奈……」
そのまま抱きしめられ、ベッドの方に行くみたいだ。
この調子なら、第一段階を楽々クリアみたいだ。私は甘え声で、
「あの。やっぱり手錠を外してもらえませんか? すごく嫌なんで」
「……松奈」
瞬間に空気が変わった。
一松さんを取り巻く空気がみるみるうちに冷却されていく。
口を滑らせた、と思った。
でもなぜ怒らせたかまでは分からない。
向こうにしてみたら『これだけしてやったのに』という思いがあったのかもしれない。
今までの私の態度が演技だったと思われたのかも。
考えても、よく分からない。私は人を怒らせるのが上手なのかもしれない。
一松さんはさっきまでの上機嫌から一転。すごく不機嫌そうな顔になる。
「手錠は松奈のための物だからね。俺はこんなことをしたくないけど、松奈が元いた場所に帰りたいって言うから、仕方なくやってることだから」
何で分かってくれないの?
ものすごく冷たい声だった。あんまり冷ややかなので、焦ってくる。
「す、すみません……」
けど一松さんはテレビの方に向かっている。
「一松さん、どうされたんです?」
「DVDプレーヤー。やっぱり持って帰ろうかと思って。喜んでもらえてないみたいだし」
「えええ!?」
焦った。手錠につながれて、やることがなさすぎるのに!
「待って待って! 嬉しいです。さっきのはすみませんでした。私が悪かったですからっ!!」
さっきの比ではない勢いですがりつき、解体作業を止める。
一松さんは不機嫌そうに、
「自分が悪いって認める?」
「認めます、認めます!!」
「ウソでしょ? 犯罪者になった俺のことが心底から嫌いになってるでしょ?」
「なってませんよ!」
一連の行動にドン引いてはいるが、嫌いにはなってない。
こんな馬鹿なことを止め、二人で外に出れば、一松さんはきっと正気に戻る。
そう、信じてる。
だけど。
「悪い子だよね。松奈は。ウソばかりついて」
痛みが走る。
「……っ!」
手錠のつなぎ部分を思い切り引っ張られ、悲鳴が出そうになった。
治りかけたすり傷が、また思い切りこすれて赤くなった。
「う、ウソじゃ無いですよ」
「じゃあ何で目をそらすんだよっ!!」
大声で怒鳴られ、ビクッとした。