第3章 三ヶ月目のさよなら
「両手を使えなくて可哀想だから、下着を下ろすのを手伝ってあげる」
いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……。
そしてトイレの中。私は座っているのであるが。
「何か、ものすごく変なプレイをしてる気分だよね」
「いや、その……」
なぜだろう。生まれたままの姿というのは何度も見られているはずなのに、それとはまた別の意味での羞恥心を感じる。
こ、この居たたまれなさ。手錠をされた両手でカーッとなる顔を押さえる。
「いや、さすがにこういうので興奮したりしないからね? そこまで変態じゃないから」
赤くなって腕組みし、背を向けてくれてはいるが。
「あの。下ろして下さったんなら、別にもうトイレの中にいる必要はないのでは?」
「…………。失礼しました」
バタンと閉まるトイレのドア。
やっとプライベートが確保され、私は肩を落とす。
しかし何なんでしょう、この茶番というか『監禁ごっこ』感。
こういうのって、もう少し精神的にアレになる感じじゃあないのか。
しかし、これなら思ったより簡単に解決するはず。
だが油断は禁物。緻密(ちみつ)に計画を練っていこう。
まず一松さんに泣きついて、手錠を外してもらう。
それから部屋の外に出してもらう。
最後に隠れ家の外に出してもらう。
閉鎖空間の外に出れば、一松さんも正気に戻り、謝ってくるだろう。
私は一松さんの頭を踏みにじりながら快く許す。
私の清らかさに心打たれ、一松さんは元の世界に戻ることに賛成する。
私は一松さんに慰謝料として三百十万を要求。
一松さんが迅速にお金を持ってきて、私は元の世界に戻る。
な、何という完璧すぎる計画!!
一ヶ月あれば余裕でクリア出来るじゃないか!!
「まだ?」
バラ色の未来に思いをはせていると、トイレのドアが開いて一松さんがのぞき込んできた。
「わ!! す、すみません。今すぐ出ます!!」
「早くしてね」
「はいっ!!」
大慌てでウォシュレットのボタンを押したのであった。
…………
一松さんと正しい関係に戻るため、一松さんを落とす作戦開始っ!!
「一松さーん♪」
方法を考えつかないので、とりあえず後ろから抱きついた。
「邪魔しないで。あと手錠のチェーンが首にかかってるから」
一松さんはつかないテレビに向かい、何か作業中。