第3章 三ヶ月目のさよなら
シャワーを浴びた一松さんは帰り支度をしながら、
「ペットボトルのフタはゆるめといたから、自分で飲めるよね。
夜くらいは帰らなきゃいけないから、悪いけど今夜は栄養食品で我慢して」
と、お皿の上に出したカロ○ーメイトっぽいものを指す。
「えー」
不満しかない。しかも一か月、そういう食生活が続く可能性すらある。
「俺もできるだけここに来て作るから」
「あ、すみませんです」
わざわざここに来て自炊してもらうとなると、何か悪い気がしてくる。
「手首もそんなに早く傷がつくものなんだ。革手錠を探して注文してみる。
チェーンとかあって動きやすいようなやつ」
「あ、本当ですか?」
そういう問題じゃないんだけど……と思いながら話を合わせてはおく。
一松さんは内鍵を開け、去り際に私にキスをする。
「また来るから」
「早く来てくださいね」
「わかった」
そして扉が閉まり、鍵がかかる音。
靴音が遠ざかる。
「…………」
一松ならぬ一抹の期待を込め、扉をガチャガチャさせるが、もちろん開かない。
行為の疲れもあり、私は脱力してベッドに座る。
テーブルの上には猫に関する本が何冊か。
私が退屈だろうと、一松さんが持ってきてくれたものだ。
今は開く気になれない。
結局出られないまま、今日が終わるみたいだ。
でもまだまだ私は正気だ。
チャンスは必ずある。
「あ、もう一回おトイレ」
立ち上がり、手錠がガチャリと動くことにうんざりする。
これがあるとちょっとした行為も時間がかかって、大変だ。
「一松さん、明日には正気に戻っててくれないかなあ~」
そう呟き、私は急ぎ足でおトイレに向かったのだった。
…………
…………
ニートであることの利点。
時間を使い放題。
「はい、あーんして」
「あーん」
口を開けると、暖かいチキンスープ。むぐむぐと飲み込み、
「美味しい……! 一松さん、料理がお上手なんですね!」
そう言うとちょっと照れたように顔を赤くし、
「野郎ばっかの家で、皆すぐ腹をすかせるしね。自然に何となく覚えた」
うう、料理レベル1には、耳が痛い言葉だ。
一松さんはスープを置き、
「次は何が食べたい?」
「あ、パンケーキで」
「分かった」
一松さんはフォークで器用にパンケーキを切り分ける。