第1章 最初の一ヶ月
三日目の昼。
お父様とお母様を見送りし、掃除を終えた私は、居間でうめいていた。
ちゃぶ台に突っ伏し、叫ぶ。
「あ、足が、足がしびれ……」
だって!! 今どき畳にちゃぶ台とかさあっ!!
長時間の正座に慣れていない我が身。
気がつくと立つこともままならぬほどシビれてしまい、畳にくずおれ、足をふるふるさせていた。
そのまま動けずにいると、ガヤガヤと大勢が廊下を歩く音。
六つ子だ。
滞在三日目にして、どうにかこうにか顔と名前が一致してきた六つ子である。
「うう~二日酔いだよ~」
「母さーん、朝ご飯作ってー!」
「バカ、今日もパートだろう」
来るな、来るなと言う思いも虚しく、居間のふすまが開けられる。
「あれ、松奈ちゃん。どうしたの? 気分が悪いの?」
今日は普通に声をかけられた。
えーと……やっぱりパジャマだと見分けがつきにくい。
でもこのちょっと優しそうな顔は、トド松さんだ。
「い、いえ、おかまいなくっ!!」
つか今日も遅いなあ六人!! もうお昼ご飯の時間ですよっ!!
どうにか体勢を立て直そうと、足をそろそろ動かしていると。
目の前に一松さんがしゃがみこむ。
「な、何ですか?」
すると彼は、ほの暗い声で、
「……足、しびれた?」
ニヤリと笑った。
そのとき私は、彼の笑顔を初めて見た。
――て、こんなシチュエーションでの初笑顔! 最悪だっ!!
「あ~、しびれたんだ!」
「そっか、しびれたんだあ~!」
そして十四松さんとおそ松さんの声がっ!!
「いやあっ! 来ないで! 近づかないで! 触らないでーっ!!」
逃げようとしたが、かなうはずもない。
そして、しびれにしびれた足に……悪魔どもの手が……っ!!
「うぎゃあああああああーっ!!」
松野家に若い女性の悲鳴が響いたのであった。
…………
「こういう悪ふざけは二度としないで下さいっ!!」
床でもだえながら抗議すると、おそ松さんは『ごめんごめん~』と笑う。
が、多分悪いと思ってない。
十四松さんも『ごめんごめん~』と謝っているが、お兄さんの物まねをしている気がして仕方ない。
そしてやはり目の焦点が合ってない。