第3章 三ヶ月目のさよなら
「はい」
「へ?」
ポカーンする。そして安堵感がどどーっと襲ってきた。
もしかして、最初から全部冗談だったの!?
「わ、分かればいいんですよ、もう~。こういう冗談はほどほどにして下さいね。
本気で閉じ込められたかと思ったじゃないですか~」
あははと笑い、鍵を取ろうとすると、スッと鍵が遠ざかる。
もう一度取ろうとすると、やっぱりスッとかわされた。
……怒るな。ここで怒って空気を崩すな。
まだ大丈夫。私は動揺してないし、一松さんも普通。
二人で『いつもの空気』に戻れる。
「一松さんってば……痛いっ!」
何とか取ろうとすると、手首をつかまれた。
傷にもろに触れられ、声が出る。
けれど手を取られたまま顔が近づき、そのままキスをされた。
「ん……わっ!!」
足でこちらの足をすくわれ、そのまま後ろに倒れ――かけたけど、手を取られてる
ので、かろうじて支えてもらった。
でも手首が痛い。手首をつかむ強さが、ものすごく強い。
「一松さん……お、怒ってます?」
「何で? 外に出たいって思うのは当たり前でしょう?」
一松さんの表情に、やはり変化は無い。いつも通りにダルそう。
雨が、雨の音が……。
「俺だって、したくてしてるんじゃない……って言ったでしょう?
一ヶ月だけだしさ。ちょっと入院するとかそう思えばいいじゃない」
「い、いえ、入院ってのは、お怪我やご病気の方が、やむを得ずするものであり、健康な人間がするものでは……」
「そんなに健康でもないでしょ? 俺なんかに怯えきっちゃってさ」
「怯えてなんか……っ!」
一松さんが私の手首をつかんで、引き寄せる。
「松奈さ、さっきから、すっごい涙目なんだけど」
私を見下ろし、陰のある顔で笑う。
「足がぶるぶるしてるし、声も震えすぎ。悪いけど半分くらい聞き取れなかったから。
てかさ、そこまで怖がることないでしょ。何でそこまで怖がるの。
俺だよ? 燃えないゴミ。クズニートの一松だよ?」
そう言われても震えが止まらない。
理屈では、そこまで恐怖する状況じゃないと分かってるのに。
「だから泣きすぎ。あのさ。猟奇的に惨殺するわけじゃないし、この先ずーっと監禁するつもりもないからね。
一ヶ月だけだから。我慢してよ。ね? 良い子だから」