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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 私はしばし迷い、

「あ、あの、一松さん。ありがとうございました」

「は?」

「ここまでで大丈夫です。買い物は終わったし、あとは私が持って帰りますので」

「はあ?」

 彼が私を見た。
 睨むのではなく、正面からまともに見られたのは初めてかもしれない。

「お金のことが心配なら、お財布を持っていて下さい」
 と、荷物を一旦地面に置き、がま口のお財布を渡そうと――。

「別にいいよ。第一、この量をどうやって持って帰るの」

 一松さんはそう言って歩き出した。
「えーと、コインロッカーに一旦入れるとか、どこかに隠して後で取りに来るとか」
 いやいや。それで夕飯の材料の到着が遅れたら、お母様も困るかなあ。
 案の定、一松さんも、
「意味わかんないし二度手間。俺が一緒に持って帰る方が早いでしょ」
「すみません……」
 夕焼けの中、紫の猫背を追いかける。
「あ」
 道ばたにコンビニがあることに気づいた。
 店頭のフリーペーパー用ラックに、無料求人誌がいくつか置かれている。

 よいしょっと、荷物を持ち直し、ヨタヨタとコンビニまで歩き、求人誌を全種類、買い物袋に突っ込んだ。
 またヨロヨロと戻ると、一松さんが立ち止まって待ってくれていた。

「……。バイトすんの?」
「ええ。少しの間お世話になるので、家賃と食費くらい入れたいなと」

 言ってから『口を滑らせたかな』と内心ドキドキする。
 新しい家族を名乗って転がり込んだのに、自分から『少しの間』と言ってしまった。
 
「ふーん」

 でも一松さんはまた歩き出した。
 良かった。どうやら気にとめてないみたいだ。
 私はホッとして、彼に続く。夕空の向こうでカラスが鳴いていた。

 てか、結局お昼抜きだった。お腹空いたー!

 …………

 それから松野家にたどり着くまで、いやその日はもう、私と一松さんは一言も言葉を交わさなかった。

 荷物を置くと一松さんはさっさと出かけ、深夜、他の兄弟達と共に酔っ払って帰ってきたからだ。
 お母様たちと一緒に飲んだくれ六人を介抱しながら、私は思った。

 明日からバイトを探そう。
 バイトを始めれば三ヶ月などあっという間。
 この底辺兄弟達と深く関わることもあるまいと。

 そう思っていた。


 そのときは。

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