第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(7)
…………
月明かりが差し込む。今度は研究所の一室だ。
不毛な片付けをして、空き室に松奈を連れ込んで一戦交えた。
そんな甘いひとときのはずなのに。
「松奈……」
「ん……」
ベッドで寝ている松奈は、また眉根を寄せている。
俺が隣にいるのに、松奈はまたダンゴムシになっていた。
俺は撫でてやろうと手を伸ばし、手を止める。
今は『解凍』が怖い。
撫でてやって、固いのが解けなかったら。
きっと俺が緊張を与えているんだ。
その事実を、直視するのが怖い。
分かってるさ。俺が嫌いなんだろ。
嫌われることしかしない俺が、嫌いなんだ。
だから帰りたいんだ。
俺が好きな演技をして、帰りたいんだ。
分かってるよ。
無理しなくていいよ。
俺もそんなに好きなわけじゃないから。
…………
「一松さん。宝くじをお持ちでしょう? 返して下さい」
「嫌だ」
きっと嫌われている。
俺が松野家の人間だから、演技で恋人のフリをされている。
きっとそうだ。
絶望的な思いで松奈に笑いかける。
「何で私の邪魔ばっかりするんです! 嫌いになりますよ!」
最初から好いてなんかいないくせに。
「好きにすれば?」
松奈は戸惑った顔をする。
どうせ嫌われているのなら。
とことん嫌われたいよね。
俺は松奈のポケットから抜き取った紙片を出し、そして――。
「一松さん! ダメ……っ!!」
紙片をびりびりに引き裂き、風に飛ばした。
また嫌われちゃったなあ。
愛している。
どうか元の世界に帰らず、俺のそばにいて下さい。
泣きたいくらい叫びたいのに、その言葉がどうしても出ない。