第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(5)
……でも。
まあホテルで一晩を過ごしちゃったんだけど……。
だから絶対に嫌われた。
初めての相手としては、最低ランクの中の最低ランク。
半ば強引に関係を迫ったようなもの。
向こうも俺の勢いに流されただけだ。
正気に戻って、絶対に気持ち悪いと思われている。
こんな冴えない容姿の無職のニート。誰が好意を持つ?
自分が選ばれる理由が無い。
だから、ホテルで過ごした後の二週間はつきまとわないようにした。
大丈夫。二度と近づいたりしないから、安心して。
好きな子に迷惑はかけない。
それがクズ男の、せめてものプライドだ。
…………
『私は一松さんが好きです。理由なんて知りませんよ』
そして告白を、受けた。
ありえない。絶対にありえない。あれはウソだ。
だって何で自分。いったい、どこに惚れられる要素がある。
考えられる理由があるとすれば、妥協。
秀でているものが無い俺だから、卑屈に見える。
きっと一番取り入りやすいと思ったんだろう。
松奈はどうせ、元いた場所に帰る。
でもウソにつきあってやるのも良いと思った。浮かれている馬鹿な自分がいた。
松奈が帰るまで、遊んでやるのもいいと思った。
……思った。
その余裕があっさり打ち砕かれた。
あの馬鹿が妙な薬で猫になったときに。
にゃー。
子猫は、奴の服に潜り込んで鳴いていた。
何 で ク ソ 松 に 懐 い た 、 ダ ン ゴ ネ コ ! !
馬鹿馬鹿松奈。またあの詐欺師に近づいた挙げ句、勝手に子猫になって、今はクソ松の服に潜り込み、全力で喉をゴロゴロさせている。
「ほ、ほら、マイキティ。い、一松が待っているぞ」
クソ松がダンゴネコを俺の方へ押しやろうとしているのを見て、ブチっと切れた。
「うるせえクソ松っ!! 馴れ馴れしく名前を呼んでんじゃねえよっ!!」
ちゃぶ台をバンと叩く。
クソ松は涙目でいい気味。
だがダンゴネコも怯えて、クソ松の服にもっと潜り込む。分かってたよ。
可愛がってくれるなら、誰でもいいんだ。こいつは。
心が黒く染まる。ああ、分かっていたよ。
俺一人が、好かれているわけじゃなかったんだ。