第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(4)
「さすがだね、一松兄さん」
十四松が毛布を持ってきたので、松奈にかけてやる。
すぴー。
ダンゴムシはよく寝ている。
皆は特に何も言わない。
松奈は俺の手と言葉にしか反応しない。
その夜、トイレに行くフリをして、そっと松奈の部屋に入った。
静かにふすまを開けると、畳の上の布団に、寂しく寝ている松奈がいる。
もちろん変なことをするつもりは一切無い。
ただ気になっていた。夜は大丈夫かと。
「うう……」
松奈はやっぱり、ダンゴムシになっていた。
「…………」
起こさないようにと心臓をばくばくさせながら、そっと松奈を撫でた。
撫でて、撫でて、撫でて。
やがて松奈の声が小さく、
「……だれ、ですか?」
寝ぼけているだけだ、寝ぼけているだけだとドキドキしながら、
「俺」
「良かっ、た……」
すぴー。
ダンゴムシが解凍されていく。
俺の手の中で緊張を解いていく生き物。
俺はまだ松奈を撫でる。
月明かりが部屋に差し込む。松奈の寝顔がよく見える。
呼吸のたび、かすかに胸が上下する。
どうしてだか息が苦しくなった。
…………
松奈。よく笑うようで、あまり目を合わさない。
冗談を言うようで、しれっと毒を吐く。
ガキ。年齢不詳。未成年ということ以外、本人も覚えていない。
猫が好き。
単純、間抜け、嘘が下手。
すぐにすねて『面倒くさい』モードに入る。
『これなら落とせそうだ』
気がつくと、そう思っていた。
だって、この家を追い出されたら困るはず。
この家で立場を安定させるため、誰かに取り入りたいと思っているはず。
そうでなくとも、よく分からない奴にほいほいついていくような、こんな馬鹿。
『このままやっちゃおう』
そう思って、気がつくと夜の街を引っ張っていった。
案の定、怯えた顔をしながらも逃げることはしなかった。
邪魔をしたのは、己の理性だった。
『止めよう。こんなのは間違っている』
勢いに任せてとか、ありえない。
自分はクズだけど立場に任せて無理やりとか、クズの中のクズにまでは落ちたくなかった。