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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


■Side――松野一松(4)


「さすがだね、一松兄さん」
 十四松が毛布を持ってきたので、松奈にかけてやる。
 すぴー。
 ダンゴムシはよく寝ている。
 皆は特に何も言わない。

 松奈は俺の手と言葉にしか反応しない。


 その夜、トイレに行くフリをして、そっと松奈の部屋に入った。
 静かにふすまを開けると、畳の上の布団に、寂しく寝ている松奈がいる。
 もちろん変なことをするつもりは一切無い。
 ただ気になっていた。夜は大丈夫かと。

「うう……」

 松奈はやっぱり、ダンゴムシになっていた。

「…………」
 起こさないようにと心臓をばくばくさせながら、そっと松奈を撫でた。
 撫でて、撫でて、撫でて。
 やがて松奈の声が小さく、
「……だれ、ですか?」
 寝ぼけているだけだ、寝ぼけているだけだとドキドキしながら、
「俺」
「良かっ、た……」

 すぴー。

 ダンゴムシが解凍されていく。
 俺の手の中で緊張を解いていく生き物。
 俺はまだ松奈を撫でる。

 月明かりが部屋に差し込む。松奈の寝顔がよく見える。
 呼吸のたび、かすかに胸が上下する。

 どうしてだか息が苦しくなった。

 …………

 松奈。よく笑うようで、あまり目を合わさない。
 冗談を言うようで、しれっと毒を吐く。
 ガキ。年齢不詳。未成年ということ以外、本人も覚えていない。
 猫が好き。
 単純、間抜け、嘘が下手。

 すぐにすねて『面倒くさい』モードに入る。

『これなら落とせそうだ』

 気がつくと、そう思っていた。
 
 だって、この家を追い出されたら困るはず。
 この家で立場を安定させるため、誰かに取り入りたいと思っているはず。
 そうでなくとも、よく分からない奴にほいほいついていくような、こんな馬鹿。

『このままやっちゃおう』

 そう思って、気がつくと夜の街を引っ張っていった。
 案の定、怯えた顔をしながらも逃げることはしなかった。

 邪魔をしたのは、己の理性だった。

『止めよう。こんなのは間違っている』

 勢いに任せてとか、ありえない。

 自分はクズだけど立場に任せて無理やりとか、クズの中のクズにまでは落ちたくなかった。


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