第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(3)
何でこれで、今まで無事に生きてこられたんだ……。
いや、無事に生きてこれてはいないか。
松奈の変なところ。
彼女はよくダンゴムシになる。
…………
あるとき。あれはまだ松奈が来て少し経った後のこと。
兄弟達と部屋でダラダラしていると、おそ松兄さんが漫画を読みながら言った。
「一松、解凍してやって」
ん、とアゴで何かをさす。
見ると、床で松奈がうとうとしていた。
松奈はたまたま、俺たちの部屋に来ていた。
最初は俺と一緒に猫をかまっていたが、眠くなったようだ。
「ん……ん……」
もう眉間にしわが寄っている。第一段階だ。
あ、こぶしを握っている。第二段階に移行中。
早い段階で『解凍』しないと、どんどん時間がかかるようになってしまう。
「でも何で俺」
「おまえじゃないと解凍出来ないだろ、さっさとやれよ」
おそ松兄さんは、せんべいをかじりながら言う。
他の奴らも、特にこちらに注目してはいない。
最初は松奈の変化に慌てていたが、最近は慣れた物だ。
俺は仕方なく猫を脇にやって立ち上がり、松奈の脇にしゃがむ。
松奈はうめいていた。
「う……うう……」
歯を食いしばり、もう身体を丸め始めている。
知らない場所に来たショックなのか、以前からの癖なのか、松奈は寝るときよく『固まる』。
その状態はまさにダンゴムシ。それともアルマジロ?
どこかの馬鹿は、ハリネズミのジレンマがどうたらこうたらと言っていたが。
とにかく寝ているうちに、膝を抱え、身体を丸めて固まってしまう。
本人は一切気づいていないのだが、こちらは気づいたときに直してやる。
それを皆で勝手に『解凍』と呼んでいた。
「…………」
俺は松奈の頭を撫でる。何度も撫でる。
初めはビクッとして固まるのが早くなる。でも……。
「……だれ?」
起きたのではなく寝言らしい。
「俺」
「……なるほど」
いや、何が『なるほど』なんだよ。
しかし固まりはほぐれ、松奈の手足が伸びる。そして普通に寝息を立てる。