第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(2)
松奈は、初対面の時点で、死にそうな顔をしていた。
比喩ではない。この状態で町を歩いていて、よく補導されなかったなというレベル。
そのくらい、疲れ切って怯えていた。
こちらにあいさつする顔が、すでに処刑直前の罪人。
『どうしよう、どうしよう、どうしようっ!!』と心の声が顔に出ていた。
隠し子がどうとかいう以前に、この時点で自分のウソがバレバレだったと気づいてるんだろうか。
翌日、掃除を見張るついでに二言三言、言葉を交わした。
だが昔の話を聞けば、恐ろしく目が泳ぐ上、列挙するのも馬鹿らしいほど矛盾点だらけ。
顔色は真っ青で、いつ、何をされるか常にビクビクしている。
その上で何とか母に気に入られようと、つきまとってオドオドと顔色をうかがう様子は、虐待された小動物を思わせた。
あの子は多分、どこか別の世界から来た。
恐らく記憶を一部喪失している。
皆はすぐに、そう気づいた。
この町、この家、そして俺たち六つ子は、昔から怪異や超常現象、非日常に慣れっこだった。
大人になり世の中が変わるにつれ、そんな超常現象も少なくなっていた。
だが、それでも異常現象は常に自分たちの隣にあり、珍しいものではなかった。
彼女も、そんな非日常の使者か何かなのだろう。
こちらへの害意はない。何かの不運に巻き込まれた被害者。
どうすればいいか分からず戸惑い、泣きそうになっている。
母はどうしたものかと迷い、結局、家に置いておくことにしたそうだ。
今さら放り出すことにも罪悪感があったらしい。
必死にすがってくる、迷子の子犬を捨てにいくように。
後に父も薬の効果が切れ、それに同意したという。
放り出していたら、大変なことになるのでは。
そんな母の判断の正しさは程なく照明された。
あるとき。兄弟と遊び半分で、レンタル何とかサービスを利用しようとしたとき。
待ち合わせ場所にいたのは――。
『松奈っ!?』
家に転がり込んだ少女は、詐欺師にだまされ、怪しい商売に足を突っ込んでいた。
初対面の人間への警戒心が強い割に、一度ガードを解くと、後は一切疑わない。
松奈は、そんな致命的な欠点を抱えているらしい。