第2章 二ヶ月目の戦い
■Side――松野一松(1)
…………
『これなら落とせるかも』
彼女に対し、そう思っていた。松奈が来て最初の頃のことだ。
だってそうだろう。
こちらがクズニートなら、向こうはホームレス。
無一文で、宿無しで、身寄りも、挙げ句に記憶すら危うい。
雨の中の弱った子猫よりも、もっと簡単に落とせそうな気がした。
そして本当に落とせた。
今は――嫌われることに、嫌われていることに、毎日怯えている。
…………
彼女に聞いてみたことがある。
公園のベンチに並んで座る彼女に。
「松奈。俺の、どんなとこが好き?」
「――え」
松奈は猫を抱いた姿勢のまま。
猫が逃げた後もたっぷり三分ほど硬直し、やがて言った。
「や、優しいところ?」
適当な回答。しかもすでに疑問系だ。
腕組みをし、こちらをチラチラ見る仕草から『優しい?』という疑問が漏れ出ていた。
「優しい?」
言葉に出てるしっ!!
こちらの冷たい視線に気づいたのか、松奈は笑顔を作り直し、微笑んだ。
「全部♪」
万人向けの模範解答をし、そして腕組みし、
「……ええ? 全部?」
と哲学の難問を解くかのような顔でうめいたのだった。
そう思うなら言うなよ!!
「全部の中の、ごくごく一部が好きです」
言い直す方が傷つくわっ!!
しかもそれ、他は全て嫌いって意味だろうっ!!
どつきたいが、こちらは大人だ。どうにか自分を抑える。
「だからそれって、どこ?」
「…………」
松奈はまた三分ほど沈黙し、
「や、優しいところ?」
どつき倒した。
…………
俺は松野一松。六つ子の中で一番のクズ。
松野家に転がり込んできた子を、恋人にした。
あれは合意だったのだろうか。
今でもよく分からない。
彼女は告白をしてきたが、あれは本当に本心なのか。
家の中に居場所を持つため、ウソをついていたら?
知らない場所にいる中で精神がおかしくなって、吊り橋効果のような状態に陥っていたら?
ああ、松奈はちょっとおかしい子だ。
特に初対面のときが最悪だった。