第2章 二ヶ月目の戦い
その日、松野家の私の部屋では、妙な光景が繰り広げられていた。
一松さんはひたすら私を足蹴(あしげ)にしている。
「これがいいのか!? これが欲しいのか? メ○豚ぁ!!」
「ああ、そこ! そこがいい! もっと踏んで下さい、一松さん!!」
「『一松様』!! だろう! 立場をわきまえろ、このメ○豚ぁ!!」
「ああ、一松様!! もっとお踏み下さい!! もっと足蹴にして、一松様ぁー!!」
……。
誤解なきよう。妙なプレイに興じてはおりません。
つか十四松さん。部屋の隅で怯えたように膝を抱えないで下さい。
何が起こっているかといえば、昨日からのことが関係しております。
昨日、一松さんは私をデートに誘いに来た。
だが私はその誘いを蹴った上、一松さんがうっかりどぶ川に落ちる事態となり、
一松さんは激怒された。
翌日、用事をお願いしようとしたが、昨日のことを理由に断られた。
『いや昨日のアレは照れちゃって、つい!! いえ恋する女の子なら誰だって、デートのお誘いにテンパっちゃうものなんです。
照れちゃうあまり、恋人をどぶ川や滝つぼに蹴り落とすとか、普通の女の子なら一度や二度、経験するものですから!!』
説得力に満ちあふれた私の言い訳にも、一松さんは一切耳を貸されなかった。
私を無視してパチンコに行こうとするので、十四松さんに頼んで、一松さんを部屋に連れてきていただいた。
が、そのあたりから、だんだんと空気が妙なことになってきた。
『へえ~人に物を頼むのにその態度なんだ』
『そこまで手伝ってほしいんだ、俺に助けてほしいんだ?』
『助けてほしいなら、這いつくばって懇願してみたら?』
何のスイッチが入ったのか、一松さんのテンションが少しずつ上がっていった。
珍しく、完全に完全上位に立ったこともあるんだろうか。
なので私もノッて、とりあえず畳の上をゴロゴロしてみた。
『いいざまだなあ!!』
うわ、笑いながら足で止めないで。グリグリしないで。
『え? 一松兄さん、松奈でサッカーするの? 僕もやるー!』
十四松さん、台詞が怖ぇよ!!
でもそこから、十四松さんを加えたいつものじゃれ合いに発展するかと思いきや、
『あー!! そこ! そこをもっと踏んで下さい!!』
ある場所を踏まれた私がビクンと反応した。