第1章 最初の一ヶ月
振り向くと黄色の松パーカーの陽気そうな人がいた。
目の焦点が若干合ってないのが気になるが。
「ええと、十四松さんですか?」
「うんうんうん!!」
嬉しそうにうなずいてくる。一松さんとは逆に、こちらは警戒心ゼロな模様。
……しかし成人男性が半ズボン。なぜか袖(そで)がちょっと余ってるし。
何となく頭を撫でると、一松さんの視線がさらに冷たくなった気がした。
「ほら、松奈も行こう? 見てるだけでも楽しいと思うよ」
トド松さんがやはり誘ってくる。いや見てて楽しいのか? あの光景って……。
「いえ、もう少しお掃除がしたいので。トド松さんたち、どうぞ行ってきて下さい」
「お兄ちゃん、でいい」
「は?」
振り向くと、廊下の向こうになぜかラメ入りズボンを履いてる人が見えた。
サングラスをクイッとかけ直し、腕組みをする。
本人は気取ったつもりなのだろう。背景が障子と縁側なので、ギャップによりギャグに見えているのだが。
「俺たちは長いこと引き裂かれ、やっと再会した兄妹。
もう遠慮せず、俺たちを兄と呼び、甘えていいんだぞ」
「いや別にあなたと生き別れになったわけじゃないんですが」
こう、設定的に。
「カラ松兄さーん!」
十四松さんが袖をぶんぶん振る。
ああ、この人がカラ松さんか。愉快な人みたいだ。
「いえ、その、お構いなく」
私はそう答えるしかない。
「クソ松、てめえは黙ってろっ!!」
一松さんがドスのきいた声を出すと、カラ松さんはビクーっと姿勢を崩した。
キザならキザで、もう少し貫いた方がいいのでは。
そして一松さんはにゃんこを抱きながら、
「おまえらは勝手に出かけろ。俺は外に出る気分じゃなくなったから」
「えー、じゃあ一松は留守番するの?」
「ああ」
おそ松さんに返答する一松さん。そして彼は私を見た。
その目には、家に突然わき出た異物への警戒しかない。
見張る気だ。私を見張る気だっ!!
胃が。胃が痛ぇっ!!
というわけで、一松さんが私の見張りに残ることになったらしい。
「障子の桟(さん)のとこ……ホコリ、取れてない」
後ろからボソボソと掃除にダメ出ししてくんなっ!!
「……終わった」
結局、掃除が終わったのは二時頃であった。
昼食なんぞ作る暇もありゃしない。