第1章 最初の一ヶ月
「何か、要領悪すぎ。掃除は上からしていくのが常識でしょ?
あと雑巾、もう少しちゃんと絞った方がいいんじゃない? 床が濡れると困るんだけど」
猫がニャーと鳴く。昔のドラマの小姑か、あんたはっ!!
ついて歩く割に手伝う気ゼロの様子に殺意すら覚える。
そのとき。
「おーい、一松。パチンコ行こうぜー!」
平日の真っ昼間からとんでもない誘いが来た。
……さっき庇ってくれたおそ松さんだ。今は赤色のパーカーである。
「あ、松奈もいるの? 一緒に行く?」
「行くわけないでしょうがっ!」
すると後ろからピンクパーカーのトド松さんがヒョイと顔を出し、人なつこく私に、
「もしかして遊び方知らないの? 僕が教えてあげるよ! 出る台を知ってるから!」
やべえ。人柄はいいのに、ろくでもない連中だ。
「あ、あの……お仕事を探しに行ったりは……」
恐る恐る言うと、
「そうだよ、彼女の言うとおりだ。今日こそハローワークに行こう。
全員、今日中に履歴書を五枚書けよ!?」
緑の松パーカーの人が出てきた。
そしてその場の空気をガン無視して演説を始める。
「なあ皆、よく考えろよ。こうして妹が出来たんだ。
この子に恥ずかしくないように、俺たちは今度こそちゃんとした大人になろう。
皆、俺たちは今、人生の分かれ道に立っているんだ。さあ、どうするんだ。
パチンコに行くか、ハローワークに行くか!!」
『パチンコ』
おそ松さん、一松さん、トド松さんの声がそろった。
演説のダシにされた私は微妙な気分である。
えーと、チョロ松さんだっけ。真面目そうだなあ。
この人とハローワークに行って、ついでにちょっとお近づきになるのもいいかも。
『あのー、私もご一緒に職安に……』と口を開きかけたとき。
「そうかよ、ちくしょーっ!! じゃあ今日だけはつきあってやるけど、明日は必ずハローワークに行くんだからな!!」
え。チョロ松さん。お仕事、探しに行かないの?
「松奈ー!」
「うわっ!!」
今度は後ろからいきなり抱きつかれ、背筋がゾワーッとなる。
「ねえねえねえ、君も行かないの? 行こうよー!!」
明るい声だ。
「十四松、そいつに近づかない方がいい」
一松さんが最大級に不機嫌そうな声。私に向ける視線はもはや殺意。何なの。