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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


「あ、あのあのあの一松さん! あの方とお知り合いなんですか?
 おおおおおお顔が広いんですねっ!!」

「知り合いってか、前にあいつを製造してたし。探せばあちこちにいるけど」

「こっち方向にも話を進めたくねえ!!」

 てかここまで来ると『別世界から来た』って話、絶対に理解してもらえますよね!!

 今までの悩みは何だったんだっ!!

「でさ」
「はい?」
 一松さんに肩をつかまれた。

 宵闇が空を侵食し始めた中、一松さんの表情は見えにくい。
「変なバイトをしまくってたのって、お金をためるためだよね?」
「ええ、はい。まあ」
 何だろう。心が警鐘をガンガン鳴らしてくる。底なし沼に足をツッコミかけてるぞと。

「お金をためるのって、家に帰るためだったの?」

 一松さんが低く言う。

「そ、そうかも?」

 沈黙。

「お金がたくさんないと、家に帰れないってこと?」

 え。待て。さっきまで感動シーンをやっていたはずでは。
 いや落ち着け私。こういうシーンの場合、普通は『君を帰したくないけど、帰るのが望みなら協力するよ』と続くもの。

 漫画だって乙女ゲーだって大人の男性は、自分の感情より、女の子の気持ちを優先してくれるものなのだ!!

 だがその『大人』が、無職ニートのガチクズ、趣味はパチンコ。
 家族以外の人付き合いなし、猫以外に友達がいない人だったら……。

「そう、です。帰れないんです」

 ついに最大の弱みを告白してしまった。

「そっか。帰れないんだあ」

 ゾクッとするような邪悪な笑顔。

 そして敵はみるみるダウナーを脱していく。

 よどんだ目がみるみる生気を取り戻していく様は、底なし沼に足を突っ込む獲物を見つけた、沼の主のようであった。
 
「心配して損した。じゃ、帰ろうか」

 待てー!! 何その言い方!

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