第2章 二ヶ月目の戦い
「あ、あのあのあの一松さん! あの方とお知り合いなんですか?
おおおおおお顔が広いんですねっ!!」
「知り合いってか、前にあいつを製造してたし。探せばあちこちにいるけど」
「こっち方向にも話を進めたくねえ!!」
てかここまで来ると『別世界から来た』って話、絶対に理解してもらえますよね!!
今までの悩みは何だったんだっ!!
「でさ」
「はい?」
一松さんに肩をつかまれた。
宵闇が空を侵食し始めた中、一松さんの表情は見えにくい。
「変なバイトをしまくってたのって、お金をためるためだよね?」
「ええ、はい。まあ」
何だろう。心が警鐘をガンガン鳴らしてくる。底なし沼に足をツッコミかけてるぞと。
「お金をためるのって、家に帰るためだったの?」
一松さんが低く言う。
「そ、そうかも?」
沈黙。
「お金がたくさんないと、家に帰れないってこと?」
え。待て。さっきまで感動シーンをやっていたはずでは。
いや落ち着け私。こういうシーンの場合、普通は『君を帰したくないけど、帰るのが望みなら協力するよ』と続くもの。
漫画だって乙女ゲーだって大人の男性は、自分の感情より、女の子の気持ちを優先してくれるものなのだ!!
だがその『大人』が、無職ニートのガチクズ、趣味はパチンコ。
家族以外の人付き合いなし、猫以外に友達がいない人だったら……。
「そう、です。帰れないんです」
ついに最大の弱みを告白してしまった。
「そっか。帰れないんだあ」
ゾクッとするような邪悪な笑顔。
そして敵はみるみるダウナーを脱していく。
よどんだ目がみるみる生気を取り戻していく様は、底なし沼に足を突っ込む獲物を見つけた、沼の主のようであった。
「心配して損した。じゃ、帰ろうか」
待てー!! 何その言い方!