第2章 二ヶ月目の戦い
「もし約束を破ったら」
指切りは効果なしでしたね。
「次は何をするか分からないから」
一松さんのよどんだ視線が私を貫く。
「ははははいっ!!」
ホテルに連れ込むだけじゃ……すまないでしょうねえ。多分。
「じゃ、話はそれだけ」
と言って一松さんが立ち上がる。
「一松ぅ~、話、終わった?」
ふすまがそろ~っと開き、四人のD○が姿を見せる。
「ああ」
そして一松さんは四男の顔に戻る。
処刑場に引っ立てられる殉教者のごとく、一切の抵抗をしない。
「じゃ、ちょっと向こうでお話しをしようか」
と凄まじい負のオーラが立ち上らせるのは、チョロ松さん。
チョロ松さん。一番、まともな人……だったはずなんだけど。
そして一松さんがご兄弟にこづかれつつ廊下の向こうに消えると、
「おそ松お兄さん?」
おそ松さんが残っていた。
『あのさ』と、彼は私の前に片膝をつき、
「色々面倒な奴だけど、松奈のために何かしたいと思ってるのは本当だから。
子猫になったときも一番心配して、昨日の晩も真っ先に飛び出していったくらいだし」
ううう。罪悪感がグサグサと。
「気が向いたら話してくれると、長男の俺としては嬉しいんだけどな。
俺たちだって、何かしたいと思ってるし」
おそ松さんは立ち上がり、私の頭をポンポンと叩く。
「あんまりうちの弟で遊ばないでくれよ。ここまで夢中にさせといて、いなくなられたら、あいつ、壊れちゃうかもしれないしさ」
…………。
大人とは、一時の恋愛も大丈夫で、そう本気にはならないものだと思っていたけれど。
「そのうち、話します。多分」
おそ松さんは笑ってうなずき、そして部屋を出て行った。
そしてほどなくし、六つ子たちの部屋から盛大な悲鳴が響いたのだった……。
午後の暖かい風が、私の髪を揺らす。
縁側で座布団に座り、茶をすすり、疲れた身体を休める。
いつか話すことが出来るんだろうか。
博士が戻ってくる前、何の証拠もない状態で。
信じてもらえるんだろうか。
いや違う。
話して、お別れを宣言する勇気が持てるのだろうか。
「あのさ、ちょっとは心配してよ……」
足下の庭に転がっている、ズタボロな何かから話しかけられた気もする。
が、私は青い青い空を見上げ、茶を飲み続けたのだった。