第2章 二ヶ月目の戦い
ニートであることの利点。
365日24時間、時間を使い放題なこと。
思い立ったときがデート日である。
午前中を家事を終え、午後は自由時間である。
私は軽く身じたくをし、玄関先で、
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。俺も一緒に行きたいけど、怪我が目立つからさ。
今度、一緒に職安に行こうね」
チョロ松さんも、求人誌片手に手を振って下さる。
本人が言うとおり、チョロ松さんはお怪我をされている。
顔に殴られたような痕もあった。男の兄弟げんかとは恐ろしいものだ。
それはそれとして怪我を『就活しない言い訳』に使う気満々なのは、正直どうなのか。
居候なので、出過ぎたことは口にすまい。
「了解です。いってきまーす」
「夕方には帰ってくるんだよ」
言外に釘を刺された気がしたのは気のせいか。
玄関を閉め、外に出て、周囲を探索。
しばらく歩いて角をいくつか曲がると、やっと目的の人物が現れた。
「一松さん!」
「ん」
待っていた一松さんが、ポケットから片手をあげた。
小走りに私が横に立つと、スッと手をつながれる。ぬっくい。
二人で繁華街の方に歩きながら、素朴な疑問を口にする。
「何で同じ家にいて、わざわざ外で待ち合わせしなきゃならんのでしょう」
「童○がウザいし」
一松さんは嫌そうな顔だ。
私たちはさらに制約が増えた。
家で二人きりになるどころか、一緒に家を出るのもNGになりつつある。
一松さんは前回のホテルの件で、D○同盟(の一部過激派)から激しい怒りを買った。
『いかにも”これからデートします~☆””ホテルで交尾します~♪”という感じに出て行くのは許さない!! てか、うっざいんだよっ!!』
誰の発言かはご想像にお任せしよう。
普段の穏やかな笑顔が嘘のような逆上ぶりだった。
で、結果、一緒に出て行くのは禁止になった。
まあそこは一松さんなので、売られたケンカはきっちり買ったそうだが。
手をつないで歩きながら、一松さんは、
「今日はどこに行く? 何か見たいものとかある?」
「あ、はい。札束とか大金とか。視界を埋め尽くすほどのお金が見たいですね」
「…………」
冗談。冗談っすから、じわじわと握力を強めないで。手ぇ痛いっす。