第1章 私は貴方に恋をした
目的の場所に辿り着くと、足を止めて振り返った楓にまた朱里がビクリと肩を揺らす。どこか居心地悪そうにしているのは、見慣れない場所を興味津々に見回していたせいだろうか。
「朱里、目を閉じて?」
「目、を?」
「そう。心配だったら俺の服なり腕なり掴んでていいから、少しここも揺らぐかもしれないし」
「……うん」
迷いながらも小さく頷いて目を閉じたのを確認して、楓は庭を作る方へ向き直る。
目を閉じて、目の前に少し前に見た朱里の実家の庭を思い浮かべる。己の中にある扉を開き、閉じ込めている霊力を解放するイメージしてゆっくりとそれを流し込んでいく。
最初に流れ出た霊力が地面としている場所に辿り着いた瞬間、ほんの僅かだけ本丸全体が揺らいだがそれも微々たるものだった。
緩やかに流れ出た霊力が定着するのを感じて楓が目を開けると、きっちりと写真に収めてきた庭と同じ物が出来ていた。
自分の状態も確認して、不調もなく霊力も安定していることにほっと安堵の息を吐くと楓は朱里を振り返る。
服の裾を強く握って何かに恐怖するように僅かに身体を震わせている、俯いている姿に少し腰を屈めるときゅっと唇が噛み締められていて楓はそっと手を伸ばすとそれに触れる。
「朱里、目、開けて」
「……楓さん?」
「これが朱里に見せたかった物だ」
優しく声を掛けると体中に入っていた力を抜く様に細い息を吐きながら、ゆっくりと目を開いた朱里が楓を見つめ返す。
まだ、自分の身体で隠す様にしていたその先は朱里の視界には映らない。大丈夫だと微笑んで、屈んだ姿勢を元に戻すとそっと朱里を引き寄せて隠していた物見せる。
「こ……れ……?」
「朱里の大事な思い出が詰まってた家は手放すしかなかったけど、家具やアルバムや、そういう物以外でも持って来れるのがないかと思ってな。これ作るのにはちょっと霊力が足りなくて戻ってきてすぐ霊力増強の道具使って底上げ計ってたんだがなかなか、な」
「二日前は?」
二日前にやろうとして失敗したのだろうと、言わなくても予想はつくのだろう。今一つ信じられないというように不安そうな瞳で見てくる朱里に、楓は遠い目をしながら小さく唸る。