第1章 私は貴方に恋をした
とりあえず座ろう、と庭にしたのに合わせて縁側になったそこに腰を降ろし朱里の手を引いて自分の膝に横抱きで座らせると庭に視線を落とすと、ゆっくりと放し出す。
「二日前、朱里が来た時、丁度試しにここを作ろうとしてたんだよな。朱里に内緒にしたかったから執務中を狙ったんだが、庭一つとはいえ本丸の改装だから揺らいだんだろうな。朱里に見つかって駆けつけてきて、まぁ……動揺してたから自分の状態の把握も疎かだった」
「……心配、したんです」
「うん、ごめん」
「サプライズは嬉しい、けど、嘘を吐かれるのも隠し事をされるのも嫌っ」
「うん、もうしない」
だから倒れた、と言えば怒ったような困ったような表情で小さな声が落ちてくる。朱里の震える声に素直に謝れば、胸元に置かれた手に服をきゅぅっと握られて訴えられる。
楓はそれを受け止めて、二度としないと約束すると頷けば、額がぐりぐりと胸元に擦り付けられる。
ゆっくりとした動作で髪を撫で梳きながら、朱里が落ち着くのを待つ。しばらくして動きが止まると、朱里から疑問が落とされる。
「なんで、二日前は倒れたのに今は平気なの?」
「それなぁ……朱里、蛟に会っただろ?」
「蛟さん? うん」
「あれな、一応神様な。あれに、眠り込んでた二日間扱き倒された」
「えっ?!」
朱里が顔を上げるのとは反対に、今度は楓が朱里の首筋に顔を埋め擦り寄る。くすぐったいのかくすくすと漏れる笑いに、笑いごとじゃないと呻けば朱里の手が頭を撫でていく。
それに目を閉じて深く呼吸するとぽつぽつと二日間の出来事を要約した内容を口にする。楓が諦めれば、確実に死んでたよなぁ……と内心のボヤキは口にせず、あらかた話し終った頃には朱里にぎゅぅっとしがみつく様に抱きしめられていた。
楓はそれに苦笑して、背中を宥めるように撫でてから頭を起こすと、朱里と視線が合う。自然と引き合って軽く口付け合うとどちらからともなくくぅっとお腹が鳴る音がして、朱里が顔を赤くしながら慌てだした。