第1章 私は貴方に恋をした
とてつもない倦怠感に襲われながらも、空間で身体を起こすと引っ張られる感じがする。
蛟を見ればのんびりと手を振った後その姿を消していた。本丸の朱里の傍に行ったのか、本家へ当主として戻ったのか、行き先は解らない。
楓は引っ張られるままに自分の身体を意識する。戻り方は教えられていないが、目を覚ませというならそれを念じればいいだろう。
大切な所でいい加減だ、と神を詰ったところでそんなものかと己の中で答えは出ている。
不意に瞼の向こうが白くなり、まぶしさに強く目を瞑ってから開けると朱里の泣きそうな顔がドアップであって驚く。
「うっわ、朱里?」
「っ……かえでさん~~」
「わっ、ちょ、泣くなよ、朱里? ごめん、心配させて悪かった!」
今にも零れそうな涙が見えて楓は手を伸ばしてそれを掬いながら声を掛けると、朱里が名前を呼びながら泣きついてきて慌てて抱き留める。
楓はそんな朱里に蛟の言葉に違いなくきっと心の中では泣いていたのだろうと思うと申し訳なくなり、必死にあやしながら謝るが届いているのか居ないのか。
結局そのまま朱里が泣きやむまで、泣きやんでも気が済むまで抱き留め続けることとなった。