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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


「ならば、朱里の為に、お前が狂うなら我が止めよう」
「あんたが?」
「ああ、お前が目覚めぬのは自分のせいだと朱里が泣いている。我とて朱里をこれ以上泣かすのは不本意だ。そもそも、お前に足りぬのは覚悟だけだ」
「……ほんとに止めてくれんのか?」
「約束は尊き物、違えはせぬ」

楓は蛟の言葉に黙り込む。朱里を泣かすのは楓にとっても泣かすのは本意ではない。喜ばせたくてやっていたことで盛大に泣かせている現在、本末転倒だと思っているくらいだ。
目を閉じれば思い浮かべるのは朱里の嬉しそうに笑う顔。しかし、泣いていると聞いた途端にその笑顔は崩れ、酷く悲しそうに独りで泣いている姿に変わる。
ぐっと手に握りこぶしを作ると、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出してから目を開ける。蛟を見れば再び課される重圧。
楓はその重圧に対して自分の周りにドームの様な結界を張るイメージをする。楓の力に対して委縮し作られていた壁に、蛟の約束がヒビを入れる。
何度か深く呼吸をして、覚悟を決めると自分からその壁の向こうにある力を引き出す様にイメージする。

――パン!

「ふむ、見事」
「はっ、はっ、うっ……疲れた……」
「丸っと二日粘ったならそれも致し方あるまい」
「二日……」

風船が割れたような破裂音の後、楓は漸く重圧が完全になくなって開けていた目を閉じるとしみじみと呟く。
それをさらっと流した蛟の発した日数に、思わず絶句する楓を蛟はカラカラと笑って見ている。
顔を覗きこまれ、鼻っ面で対面する面にやはり畏怖は感じるが恐れはない。不機嫌そうに睨み返せば、空気はやはり愉快そうに震える。
良く考えれば罰当たりではあるが、ここまで来たら今更だろう。

「約束……守ってくれよな」
「当然、朱里を守るには必要条件だ。さて、そろそろ起きて朱里を宥めよ。我が行ってもいいが……」
「俺が行くに決まってんだろ」
「それは残念だ。今度こそ、朱里を泣かすな」
「気をつけはするが、すれ違いも衝突も、しなければならない時もある」
「ならば、故意にそれをやらなければ良い」
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