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私は貴方に恋をした

第1章 私は貴方に恋をした


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「ああ、そうだ。朱里には可愛い味方が居る様だな……」
「はっ……ぁ?」
「話す気力がない割に、反応はするのだな……」
「ほっ、とけ。な、まえ……は」
「うーむ……意外に活きが良いな。潜在霊力は高そうだ」

楓が男にこの真っ黒な世界に引っ張り込まれてから、丸二日が経とうとしていた。
何度か圧力を押し返して立ったものの、直後には更に負荷が増えてまた沈むというのを繰り返し、楓はそろそろ限界であった。
その間、男は自らを蛟だと名乗り、楓にあれやこれやと声を掛けてくる。楓は圧し掛かってくる圧力に必死に反発しながら律儀に答え、実は蛟に面白がられているのだがそれを気にしている余裕はない。
時折圧迫感が過ぎて、ぐっと息を詰まらせているがその度に何とか反発して呼吸を取り戻している。
そうしながら、時折意識が内側に向かうと権力という力に溺れ魂を歪めていった父親と、それを悲しみながらも逆らわなかった母親が頭を過る。同時に蛟が言った言葉も、だ。

「また、考えているのか」
「みえてん、だろ」
「うむ。お前は我に視えることを拒絶しないからな」
「今更、だろ、別にあんたや朱里に視られても、困ることはねぇ、よっ、くっ」

力を持つことの意味、それを振うことの重さ、自分の手に余るそれを手に入れた時を想像した時の恐怖。
普通は喜ぶのかもしれないそれらは楓にとって恐怖でしかない。手に入れたくないと、どうしても願ってしまう。
そして、思うたびに息が詰まり死にそうになる。つまり、圧迫を跳ね返している力が弱まるのだ。
解っていてもどうしても拒絶する。

「お前は、変わっている」
「何が」
「すべてが。持てる力を振う必要はない。力の矛先を破壊に向ける必要はない。守ることに使えば良い。力に恐怖するお前は、力の矛先を間違えはせんよ」
「わかんねぇ、だろ? 親父だって、狂ったっ!」
「……お前と父親は違うだろうに、名も血族も恨まぬのに己に流れる血は憎むのか」

呆れたような蛟の言葉に、楓は唇を噛み締めるしか出来ない。苦しくなる呼吸が、ふっと緩まる。途端に気が抜けてどさりとうつ伏せに床へ崩れ落ちる身体、乱れたままの呼吸で頭上に立つ蛟を見る。
どこか苦笑したような雰囲気に、楓に困惑が浮かぶ。畏怖はあれど恐れはない。
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